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紺色の着物に身を包んでいたアスカは、やってきた依頼人を自分が座っていた3人掛けのソファーに座らせた。
立ち上がったアスカはキッチンへ行き冷蔵庫を開け、数本のペットボトルを出した。
「レモンティー、オレンジ、グレープ、炭酸水、水、麦茶がありますが、どれになさいます?」
キャップの下を左右の指の間に挟んで、客人にも見えるように掲げる。
「え、あ、えっと……お茶で」
「承知しました」
笑みを浮かべると細めたアスカの目は、吊り上がって見え狐目と表現するのがしっくりくる。
染められていない黒髪はサラサラで、頭はきれいな丸いシルエットになっている。アスカ本人も聞き分けのいいこの髪は気に入っていた。
「それで? 今日は何の用件で?」
アスカはペットボトルのお茶をそのまま客人に渡す。
自分はオレンジジュースを持って、依頼人の正面の1人掛けソファーにドカッと座った。
「えっと、その……」
依頼人の視線はチラチラとテレビに向けられている。
「あぁ、気が散りますよね。消しますね」
テーブルの上にあったリモコンを手に取ったアスカは、すぐに電源ボタンを押した。部屋が一瞬にして静かになる。
冷房や冷蔵庫のモーター音が聞こえるだけ。
車通りもないような場所にあるビルのため、外からの音も聞こえない。
そんな事務所のソファーの上で、依頼人は言いにくそうに口をもごもごと動かしていた。
話はしたいが信じてもらえるかどうか……。
そういう雰囲気を出す依頼人は多くいる。
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