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「幽霊でも見ましたか? それとも包丁がひとりでに飛んできました? 家具が浮き上がったとか?」
アスカは何でもないことのように軽い口調で想像を口にする。
「どんな心霊現象でもお任せあれ! この幽刃アスカが見事に解決させて見せましょう!」
依頼人は驚いた様子でアスカを見てから、意を決したように表情を引き締めた。
「遅ればせながら、私は串本と言います。私はアパートで妻と一緒に暮らしているんですが……」
「アパート暮らし! それはいい」
何がいいのか分からないと言いたそうな顔をした依頼人――串本は、続きを話すべく口を開いた。
「2週間ほど前からになりますか……。隣の部屋から『どこ? どこに行ったの? どこにいるの? いつ帰ってくるの?』という女性の声が聞こえてくるようになったんです。昼は何ともなく夜な夜な聞こえてくるもんですから、妻が気にして眠れなくなりまして。怖がって私を起こすものですから、私まで寝不足に」
アスカは納得した様子で頷いた。
「ふん、それで酷い隈だったわけですね。それで? ここに来る前には誰に相談を?」
「えぇ。その、借家なものですから、大家さんに電話を。私の家は2階の端なんですが、左隣から夜な夜な声が聞こえると伝えたところ、その部屋は2週間前から空き家だっていうんですよ」
アスカは時折相槌を打ちながら話を聞いていた。
それで? と続きを促したアスカは、手に持っていたオレンジジュースのペットボトルを傾けた。
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