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「隣の部屋に住んでいたのは麻佐木さんという気のいい夫婦だったんですが、1カ月前に旦那さん……哲夫さんが亡くなりましてね。どうもそれからすぐ……それこそ2週間前くらいに奥さんのほうも亡くなってしまっていたようで、今は誰も住んでいないし、先週には家族さんによって解約もされているとのことでした」
串本はそこで言葉を止めると、アスカから受け取ってそのままだった麦茶のペットボトルのキャップを開けた。
喉を潤した串本はさらに話を続けた。
「それでも声は続いたものですから、警察に行って調べてもらったりもしたんですけど、家の中には家具ひとつなかったんです」
「ふん……」
アスカは目を閉じて何やら考え込む。
すぐに目を開いたかと思うと、目を輝かせて串本を見た。
「串本さん! それでは行きましょう!」
「え? い、行くってどこへ……?」
「それはもちろんアパートですよ。幽霊がいるんだったら会いたいですし! 誰を探しているのか気になりませんか? 僕は気になります!」
アスカがソファーから身を乗り出して熱く語る。
串本はアスカの勢いに押されるように身を引いた。
「さぁさぁそうと決まれば行きますよ! アパートまでの案内をお願いします。あぁ、ここから遠いですか? 車の方がいいでしょうか?」
「で、電車で3駅ほどです」
「ふん……ならば車で行きましょう。終電がなくなりでもしたら帰れなくなりますからね」
アスカは事務机の引き出しから車のカギを出すと、椅子にかかっていた羽織と飲みかけのオレンジジュースを持って嬉々として事務所を出る。
そのあとを麦茶のペットボトルを持った串本がついて行く。
ビルの1階は駐車場になっており、アスカはカギについているボタンを押した。遠隔でロックが開けられた車のヘッドライトが点滅した。
白いミニバンに近づいたアスカは、助手席を開けて串本を中へと促した。
串本が乗り込んでからドアを閉めたアスカは、前を回って運転席に乗り込んだ。
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