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「車だったらカーナビでいけますね。住所を教えていただいても?」
「あぁ、はい」
串本からアパートの住所を聞き、アスカはそれをカーナビに打ち込む。
目的地が設定され、アスカはアクセルを踏み込んだ。
「安全運転で行きますね~」
「はい、お願いします」
串本は顔に緊張の色を浮かべながら返事をした。
「もし眠れそうなら寝ていていいですよ。まぁ、3駅分程度の距離ですから、そう長い時間でもないですけど。目を閉じているだけでも違うでしょうし」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
串本は素直に目を閉じて背もたれに体を預けた。
アスカはそんな串本に声をかけることもなく、静かに運転を続けた。
ーー
目的地の近くまで来たアスカは、アパートから近い駐車場に車を停め、いつの間にかいびきをかき始めていた串本を起こした。
すっかり寝てしまっていた串本は恥ずかしそうにしながら車を降りた。
そんな串本を先頭にアパートまでの短い距離を歩く。
「さてさて、あのアパートであっていますか?」
「はい。2階のあの部屋が私の家です」
「今も声が聞こえるんでしょうかね?」
「……どうでしょう」
アスカの言葉に、串本の表情がこわばった。
串本が暮らす古びた2階建てアパートは、各階に5部屋ずつある。
アスカは手始めにアパートの周りを調べた。それから1階の各部屋の前で立ち止まり、目を閉じてじっとする。
串本はそんなアスカに下手に声をかけることはしなかった。
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