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「ふん。特に何も聞こえませんね」
言うと、アスカは2階に続く鉄階段を上って行った。
串本も後に続いて階段を上がる。
「ここが串本さんの部屋ですね」
「はい。声が聞こえるのはこっちの部屋で……」
アスカは問題の部屋を素通りしたかと思えば、1階の時と同じように反対の端から各部屋の前で足を止めた。
「ふーん……。やっぱりここの部屋に問題があるだけのようですね。ちなみに、串本さんの部屋に少しだけお邪魔してもいいですか?」
「あぁ、はい、どうぞ」
串本が暮らす家の中には、何かに怯える彼の嫁と思しき女性が毛布にくるまってベッドの上で縮こまっていた。
「だ、誰ですか?」
「ほら、話しただろう? 心霊現象を扱ってくれる探偵さんだよ。こちらは私の妻です」
「初めまして奥さん。幽刃探偵事務所の所長、幽刃アスカです」
アスカは狐目で串本嫁に挨拶をする。
串本嫁は戸惑った様子でアスカと旦那を交互に見た。
「ところで奥さん。例の声は今も聞こえていますか?」
「は、はい。少し前から聞こえだして……」
時刻は21時前。
こんなに早くから聞こえるのかと、アスカは串本家の壁越しに隣の家を見た。
実際、アスカの耳にも誰かを探す女性の声が聞こえていた。
「ふん。反対側の家の方には聞こえていないのでしょうか。少し聞いてきます!」
どこか楽しそうに串本家を出たアスカは、2つ隣の部屋のインターホンを押した。
バタバタと足音が聞こえたかと思うとドアが開いた。
「はい……?」
「夜分遅くにすみません。幽刃探偵事務所から来ました幽刃と言います。訊ねたいことがあるのですが、少しお時間よろしいですか?」
ドアの隙間からチェーン越しに顔を覗かせた30代くらいの女性に、アスカは自己紹介をした。
女性は戸惑いを顔に浮かべながらも、「はぁ……なんですか?」とアスカの質問を受け入れる返事をした。
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