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ネクタイを外してあげると、自分で脱ぐと手を除けられた。手慣れた手付きでベルトを外し、ワイシャツを脱ぎ、インナーもズボンも脱いだところでさすがに「色気がないなあ」と苦笑をすると、むっとした顔で手を止めた。
「誘ったのはそっちじゃないか」
「そうだけど、さすがにそんな慣れた様子でやられちゃうとこっちとしてもこう……ねえ?」
もう少し初な感じとかさあ、と言っても、相手は困惑した顔でズボンを脱ぎ捨てる。そんな顔に寄せてキスをすれば、ひどく唇が乾燥していた。
「リップ塗ったら?」
かさかさの唇をなぞって言えば、何故か気まずそうに視線が逸らされる。少しだけ寒そうなのは、彼の現状のかっこうを見れば、それも当然というものだろう。
あまり待たせるのも可哀想だ。体を倒すと、ベッドの軋む音がした。
「ぁ、……っ、ふ、ぅ」
「すんなり入ったね、昨日も誰かとやったの?」
よいこらせ、と脚を持ち上げながら問えば、そんなことを聞くなとでも言いたげに睨まれてしまう。君が体をウリにしてることくらい知っているのだから、隠す必要もないだろうに。
萎えたままの彼に触れる。入れたところで気持ち良くはないと言っていたのは嘘ではないらしい。締め上げてくるのは興奮ではなくて緊張かな、と弄べば「ん……」という甘い声と身をよじる様。
指で体をなぞるとくすぐったそうに身動ぎしては、力が籠って締め付けられる。一緒に気持ち良くなろうだんて気持ちの悪いことを考えなければ、これ以上ないくらいの良い体だ。
「ねえ、君のいいところを教えてよ」
「……っ」
「臓腑を突き上げられるだけじゃ気持ち悪いだけでしょう?」
「……別に」
ツンとそっぽを向く様は、それで構わないと言外に言っているようで、その頬に手を添える。
雑だなあ。
そんな感想。
突き上げれば苦しそうな呼気の音。それを塞ぐように、口付ける。耳を両手で塞ぐように覆って、指先で髪をすく。触れた頬が熱い。
「……初めては誰とやったの?」
「さっきから、質問が、ゲスい」
まあ確かにこの質問はないだろう、と笑いながら、何度もキスをしてあげる。心底嫌そうに、迷惑そうに人の顔を除けようとする様がかわいらしい。
「や、め」
嫌がって逃げる顔を掴んで、乱暴に唇を重ねて舌を捩じ込む。戸惑いを隠せないような、行き場のなさそうな相手の動きに、なるほど「こちら」は初なのかと、楽しくなる。
体を起こすと手の甲で口元を拭いながら、所在なさげに視線をさまよわせている。顔は赤い。見れば、先程まで萎えてた部分も、元気になっている。
「口が弱いの?」
「……うるさい」
体を捻って顔を枕に埋めてしまう彼の反抗に、その背を撫でながら「ねえ」と声を掛ける。
「ほかの人とやるときもこんな感じなの?」
もっとガツガツ来るって聞いたけど?
答えは沈黙。赤い耳を摘まんでちょっかいを出しても、うんともすんとも応えない。拗ねたのか、反抗してるのか、どちらもかわいいから良いのだけれど。
やや乱暴に突き上げれば、「ん」という息を呑む声。姿勢を起こし、腰を掴んで、打ち付ける。体を捩ったその姿勢は辛いだろう、早くこちらに顔を向けて。
「ぁ、や、そん、な、きゅうに」
相変わらず顔はそっぽを向いたまま、腕が伸びて肩を掴む。
「さっきよりも締め付けがいいけど……興奮してる?」
「ば、か」
反り立ったそれを指でなぞれば、辛そうに喉を鳴らす。締め上げる力が強くなる。あ、これはやばいなあ、といい加減冷静でいられない自分がいる。
「……ねえ、中に出していい?」
「……は?ちょ、待って、ゴムは、」
慌てた様子でこちらを振り向いた顔を、逃がさないように両手で掴んでキスする。
すごい。緊張している、怯えている。生の経験だってあるだろうに。
「ま……っ、ちょ、ほんき?」
「………………」
とびきりの笑顔を返してあげた。
◆
「せいかくがわるい」
一通り終えたあと、すぐさまシャワーを浴びに行こうとした背に、ゴムならちゃんと付けてたよと伝えたら、信じられないものを見るような目で見られたあと、そのままベッドに倒れ込み、開口一番にその罵倒。
汗まみれの肌をぺちぺちと叩きながら「拗ねないでよ」と笑う。
「でもさ、途中からなんだろ、体が乗り気になってたね。最初はもう完全に仕事モードだったのに」
やっぱり口が弱いのかな?
「……ふん」
再び枕に顔を埋めてしまう。その隙間からぼそりと聞こえた「意識しないようにしてたのに」の声。からかっても良かったけれど、聞こえなかったことにして、その頭を撫でてあげた。
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