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日が沈み皇帝の就寝時間が近付くと、今夜もまた心が落ち着かない時間の始まりになる。
シオンが来る日は決まっていないし、何か約束のようなことをしているわけでもない。ただ、シオンが来たらすることは決まっているから、一人でそわそわと待っているような状態になる。
無視して早めに寝ていたとしても、シオンが部屋に来たら何もせずに去ってくれることはないのだと、過去に身を以って教えられた。
来るとしたら、今から三時間以内。それ以上経ってもシオンが部屋に来なければ、今日はそういうことは無しだと受け取ってもいい。
昨日したから来ない可能性も高いけれど、最近はどんどん部屋に来る間隔が縮まっている感じがするし、連日でもおかしくないのだ。今夜はどっちになるのだろう。そわそわした気持ちのまま室内で家事を片付けていると、閉じていた扉が開く音がして視線を向ける。
そこに立っていたのがあまりにも意外な人物で、ユノの動きが一瞬まった。
「え……?」
「おや、一人ですか?」
「あ、え、はい……? こ、こんばんは……?」
「ええ、こんばんは」
不機嫌そうな無表情のまま、皇帝の側近であるヤンが玄関に足を踏み入れる。
こんな時間にヤンが離れに来たことは今まで一度もなく、急な訪問にユノはどうしもて身構えてしまう。
――苦手なのだ。どうしても。
硬くて厳しい話し方や、常に怒っているような表情。誰に対しても同じような態度だから、ユノが特別嫌われているわけではないのだろう。
ただ真面目で、口調がきついだけなのだ。
仕事熱心で部下からの信頼も厚く、悪い人ではないということはユノだって分かっている。
それでも、村にいた頃にシオンのことで何度も責められた記憶は消えていないのだ。苦手意識が残ってしまうのも仕方がないだろう。
(私が苦手なだけで、女性からはかなり人気があるって聞いたことはあるけど……)
若くして皇帝陛下の側仕えをしている優秀な人であり、知的で整った容姿。女性からかなり人気があるのに浮いた話の一つもないから、男色家なのではないかと噂もあった。
そんな失礼なことを思い出してしまった気まずさもあり、二人の間の空気が少しだけ重くなる。もともと、楽しく会話をするような間柄ではないのだけれど。
「お一人なようで安心しました。上がっても構いませんね?」
「え? あー……その、もちろん構いませんけど、こんな夜中に何か……?」
「見回りですよ。不審者が彷徨いていないか本宮内を歩いていただけです」
「不審者……あ、女一人だから心配してくれたんですか? だからわざわざここまで?」
「まさか。そいつが身を隠すならここだろうと思っただけです」
「へ……?」
扉が閉められ、室内に上がったヤンが荷物を床に下ろした。
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