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近所の人に聞いて回ったが飼い主らしき人はいないし、誰かが猫を探しているという話も聞かない。
それならもう、私が一緒に暮らしていいだろうか。すでに大好きになってしまった猫に向かってそう訊くと、ニャオと短く鳴いて返事をしてくれた。
これ以上愛着が湧かないようにずっと我慢していたけれど、一緒に暮らすと決めたなら名前をつけよう。
その後、悩みに悩んで「シオン」と名付けられた白猫は、正式にユノの家族となった。
名前を呼ぶと返事をしてくれる存在がいる。一緒にご飯を食べる相手がいる。そんな生活は久しぶりで、会話ができるわけでも劇的に生活が変わったわけでもないのに、ユノの毎日はずっと楽しいものに変わった。
両親が亡くなって、自分で思っていたよりもずっと寂しいと感じていたのかもしれない。
シオンと出会って、そのことにようやく気付けたのだ。自分の痛みと向き合えたことで、また少し前を向けた気がする。
ありがとうとシオンに伝えても、ちゃんと理解してくれているのかは分からない。それでも、三年前に親を亡くした自分にできた久しぶりの家族なのだから、ちゃんと言葉で感謝を伝えておきたい。
それに、別に通じていなくても構わないのだ。ユノの言葉にシオンはちゃんと返事をしてくれるし、それが可愛いから話をするだけで楽しい。
自分の膝にシオンを乗せ、ふわふわの毛を撫でながら話をする時間が好きだ。甘えるように擦り寄ってくる姿は本当に可愛くて、人様に聞かせられない声を出しながら撫で回してしまう。
初めて見た時は分からなかったけれど、ちゃんと手入れをしている今は、シオンが驚くほどに美しい猫であることが分かる。サラサラふわふわな真っ白な毛並みと、紫水晶のような珍しい色の美しい瞳。
猫はみんな可愛いとは思うけれど、その中でも特にシオンは美人さんな感じがする。
――なんて、猫を飼っている人は、みんな同じことを思っているのだろうけど。
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