最悪な夜

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 まあ、後ろ手に柱に括り付けられている状態であることは変わらないのだが、それでもシオンの背に庇われるような形なので、さっきよりは随分と安心できた。 「何をしても簡単に感じて可愛いだろう? 触っていて楽しかったかもしれないが、不快だからもう二度としないでくれよ。次はない」 「今、一体どこから……」 「ああ、それとなぁ、この子が何をしても痛がらずに濡れるのは、俺のために身体を作り変えてる最中だからだ。決してお前のことを好ましく思っているからじゃないからな」  口調は軽いし、形のいい口元も笑みを携えている。  それなのにシオンの目は全く笑っていないし、声も厳しく怖かった。  誰が聞いても分かるくらい、シオンは決して機嫌が良いわけではないのだろう。  小馬鹿にしたような、呆れるようなシオンの表情は、きっと自分に向けられたら腹の立つ表情だ。ヤンの問いかけに答えるつもりもさらさらないらしく、言いたいことだけを喋っている印象を受ける。  それなのに、薄らと笑うシオンの姿は、思わず溜息が出てしまいそうなくらいに綺麗で目が逸らせない。  美しい表情を貼り付けたまま、シオンがヤンに笑いかける。 「まあ、道具しか使っていないことだけは褒めてやる。途中で他の男のものが入り込むと、色々と面倒だからなぁ」  静かに、ヤンが短く息を吐く音だけが聞こえる。  あんなにもネチネチと言葉でユノを詰ってばかりだった人間が、シオンの前では何も話せなくなっているようだった。  この光景はどこか異様だ。 「この子は何も悪いことはしていないし、どんな理由があろうと手を出したら許さない。俺が彼女のところに通っていることを他言しないなら今は見逃してやる。さっさと出ていけ」  シオンが、言葉だけで人を操っているように見える。  何も発さないまま息を飲んだヤンは、一度小さく頷くとふらふらとした動きで部屋から出て行った。
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