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「何のために、そんなの……」
「最終的に君を連れて帰るつもりだった。ただの人の身だと入れない場所なんだが……まあ、そろそろ大丈夫だろう」
「シオン……?」
「本当は、もう少しここに居てやってもいいと思っていたんだがなぁ……。もう無理だ。気が変わった。連れていきたい、今すぐ」
「え? え、あ、なんで……?」
「はっ、他のに君が触られて、俺が平気でいるとでも思ったのか? 俺は君をここに置いておくのが心底嫌になった」
「んっ……」
シオンの唇が重なり、開いた隙間から舌が差し込まれる。
その瞬間に浮遊感に包まれた気がして、ユノはぎゅっと目を瞑った。
――なんとなく、どこかに移動したのだろうと感覚で思う。
恐る恐る目を開くと、目の前に広がっていたのは見たことのない景色だった。
「……なに、これ」
どこまでも続く広い水の上に大きな縁側が浮いているような、そんな場所にユノの足がついている。
今までいた場所とは空気がまるで違い、夜のようなのに明るい空の色が、ユノの目の前に広がっていた。
人の声や生活音は何もなく、風だけが柔らかくユノの髪を靡かせる。
隣には変わらずシオンが立っていて、触れた体温だけがいつも通りだった。
「……っえ、あ……ここ、どこ?」
「んー……君らで言うところの、天とか空とかその辺りか?」
「天……」
本当に人間の住めない場所にシオンはいたのだと、今更ながらに実感する。
ここを通って空間を移動していたのだというシオンの話は、ユノの耳をそのまま通り過ぎていった。
ふわふわとした夢のようで、あまりにも現実感がない。
「さて、ここに君を連れて来られたってことは、君はもう俺に近い体なんだ。人間ほど脆くない。手加減してやらないから覚悟しろよ」
「え……?」
「とりあえずは他の男に触られた分、たっぷりと上書きさせてもらおうか」
首筋をシオンの指でなぞられ、ぞくりとしたものがユノの背中を駆ける。
自分の中に生じた気持ちを比較して、ユノはただ混乱した。
ユノの話を聞かず、無理やりであることに変わりはない。
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