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自分の家の子が一番可愛いと思うなんてよくあることで、シオンが特別なわけではない。そう思っていたけれど、どうやらシオンは本当に美しく、人を魅了する子だったらしい。
どのくらい凄いのかと言うと、ユノの家に皇帝陛下が急に訪ねてくるほどである。
シオンと暮らし始めて三ヶ月、裏の畑で紫陽花が咲き始めた季節のことであった。
「報酬はいくらでも用意する。他にも必要なものがあればここまで届けさせよう」
「は……? え、えぇ……?」
急なことに何を言われているのか理解ができなかったが、どうやら皇帝は、村の視察中にシオンに一目惚れをしたらしい。
皇帝が触れようと手を伸ばすとシオンは嫌がり、逃げたシオンを追いかけてきた結果、皇帝はユノの家に辿り着いたと言うのだ。
外から呼ばれて扉を開けたら、この村には似つかわしくない高貴な服装の人が立っているのだから本当にびっくりした。
一瞬で心を奪われたのだと、そう訴えてくる皇帝の目は真剣だ。
真剣だったからこそ、ただの気まぐれではないのだと分かった。
本来なら、直接話をすることすら許されない相手だと分かっている。逆らうことも断ることも、許されない行為だと分かっているのだ。
けれど、私もどうしてもシオンだけは譲れないと、頭を床に付けてユノは皇帝に謝った。
頭を伏せていて表情こそ見えないけれど、皇帝の戸惑った様子が声で分かる。
「……ああ、いや。私が君の立場でも、急に譲れと言われたら同じことをするだろう。君にそんなことをさせるつもりで言ったわけではないのだ。また来るから、次までに考えておいて欲しい」
意外にも優しく皇帝陛下は退いてくれ、その日はそのまま帰っていった。
しかし安心したのも束の間のこと。また来るからと言っていたのはどうやら本気だったようで、その三日後に再び皇帝はユノの家に訪れた。
ここまで皇帝が本気になるなんて、一体シオンは彼の目にどんな風に見えているのだろう。確かに美しい猫だとは思うけれど、皇帝に懐いているようにも見えないし、彼に媚びるような仕草も全くない。
それなのにどうしてここまで心を奪われているのか、ユノは不思議で仕方なかった。
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