新しい暮らし

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 この家を捨て、シオン以外に何も持たずに逃げ出して一人でやっていく力も、頼れる誰かもユノにはいない。親しくしていた友人も親切だった近所の人も、こういう状況だと説明したら間違いなく皇帝の側につくだろう。  どうしていいのか分からない中で、自分の選べる選択肢が一つに絞られていくことだけはひしひしと感じていた。  皇帝の飼い猫になったら、きっとシオンとは二度と会えなくなるのだろう。それでも、ただの平民がいつまでも皇帝のお手を煩わせるわけにもいかないのだ。  ヤンの言う通り、シオンだって皇帝に貰われた方が幸せなのかもしれない。  住む場所、食べ物、環境……どれをとっても、皇帝の与えるものにユノが叶うわけがないのだから。  一度覚悟を決めてから、ずっと辛くて涙が止まらなかった。ごめんなさい大好きだよと何度も口にしてシオンと一緒に眠りについた翌日、迎えにきた皇帝にシオンは引き取られていったのだ。  心にぽっかりと穴が空いたみたい。しばらく立ち直れそうもないと、そんなことを思いながら過ごして三日目。  皇居にきてから一度も餌を食べないし眠りもしない。昨夜は夢の中でお前を呼ぶようにとシオンに告げられたのだと言いながら、再び皇帝とヤンがユノの家に訪れたのだ。  シオンのためにどうか来て欲しいと皇帝陛下に直々に頼まれ、シオンに続きユノまでが本宮内に住む家を用意されることになった。
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