新しい暮らし

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 (それにしても、皇帝が暮らす本宮内に平民の女を住まわせるなんて、さすがに特別扱いが過ぎる)  無論、特別扱いをされているのはシオンである。  しかしこの現状が他の人の目にどう映るのか、噂を流された張本人であるユノは痛いくらいに知っていた。  ユノが住むのは本宮の端に建てられた離れとはいえ、皇帝が普段過ごしている皇居まで歩いていける距離なのである。  皇子のいる後宮ではなく、皇帝の暮らす本宮内に住まわせるのだ。猫の世話係として連れてきたと言ったところで、一体何人が信じてくれるのだろう。  しかも、皇帝が足繁く通っていた村に住んでいた噂の娘だ。勘違いは加速するだろう。  ようやく手に入れた愛猫が心配で元飼い主が連れてこられただけなのだが、きっと噂は面白おかしく脚色されて広がっていく。  それでも、またシオンと一緒に居ることができる喜びは他の何にも変えられない。  人の目が気にならないと言えば嘘になるけれど、どうせユノが本宮内の人と関わることはほとんどないだろう。ここでの仕事はシオンが健康的に生活できるように世話をすることで、何かあったらヤンに報告するようにと言われている。直接関わりのない人がほとんどなのだから、噂なんて気にしていても仕方ない。  皇帝はユノに対して何も興味がないし、所詮ただの噂だったとそのうち分かってもらえるだろう。皇宮で働き、皇帝の姿をよく目にする者ならば嫌でも分かるはずである。そのくらい、皇帝のシオンに対する寵愛ぶりは盲目的だった。  最高級のご飯と、一目見ただけで最上の素材で作られたと分かるほどの寝床を与えられ、手入れ用のブラシやタオルも最高級のものが用意された。  本宮内の至るところに猫用の入り口が設けられ、皇帝の私室にはシオン用のクッションやおもちゃが大量に置いてある。  シオンも可愛がってもらっていると分かるのだろう。皇帝には少しずつ懐いているようで、たまに皇帝の膝の上で昼寝をしている姿も見られた。その度に皇帝は、声にならない声を出して呻いている。  本宮内を自由に歩き回るシオンの姿を見て、撫でたいとかおやつをあげたいとか思う官僚も多いらしい。しかしどれだけ餌で釣ろうとしても、シオンが自ら近付くのはユノと皇帝だけだった。
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