シフォンケーキ

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シフォンケーキ

あれは……シフォンケーキを焼いた日だった。 ふわふわした甘いものが食べたい時、わたしの中ではシフォンケーキが鉄板。 材料も少なくて家にあるものでできるから、急に思い立っても作ることが出来る。 バイトから帰って作り始めたから、焼き上がった頃には9時を過ぎていた。 オーブンから出したばかりのシフォンケーキは、型からはみ出して最高に膨れあがっている。 それを台の上の少し高いところからトンっと落としたら、ワインの入っていた細い瓶に型ごと逆さにして挿した。 そうして冷ましている間に使った道具を片付けて、元あった場所にしまってから、コーヒーを淹れた。 明日は大学の授業も午後からだし、シフォンケーキが冷めるまで起きていようかな、なんて思っていたらスマホの着信音が鳴った。 画面に表示された名前は「長岡渉」。 付き合って半年くらいになる「彼氏」。 「バイト、7時までだったよね? 何してたの?」 「シフォンケーキ作ってた」 「夜に?」 「今、冷ましてるとこ。今日はいつもより――」 「全部一人で食べたらダメだよ。太るから。由希はせっかくスタイルいいんだから」 「長岡くん――」 「僕は甘いもの苦手だから食べられないけど、由希の友達の渡辺さんとか喜ぶんじゃない?」 「……そうだね」 いつからだろう? 何となく…… 「バイトさ、まだコンビニ?」 「そうだけど?」 「コンビニじゃないといけないの?」 「どういう意味?」 「うちの近所のコンビニなんて主婦の人しかいないから。由希みたいにかわいい子はカフェとか、そういうバイトの方が似合うと思って。制服だっておしゃれだし。由希がカフェでバイトしたら毎日通うかもしれない」 いつからか、何となくだけど、何か違うと思い始めた…… 「少しは考えた方がいいよ。友達に『彼女どこでバイトしてるの?』って聞かれた時、僕もコンビニってなんか言いづらいっていうか……」 どうしてコンビニだと友達に言いづらいの? わたしのこと考えてくれているように言うけど、考えてないよね? 「今のバイト先、家から近くて便利だから。それにね――」 「今日、12時からサッカーやるんだ。12時からはまだいい方で、時差で朝4時からとかの時はきついんだよね。それでも見るけど」 それから長岡くんはサッカーの話をずっとしていた。 特に意見を求められるわけではなかったから、時々「そうなんだ」とか「すごいね」とか相槌を入れながら聞いていた。 サッカーに興味が持てない。 長岡くんは甘い物が好きじゃない。 これはお互い様? わたしの話はすぐに話題を変えられてしまう。 これは?
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