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白石くんとシフトが重なった日、バイトを終えてから、白石くんと一緒にわたしの家へ向かった。
バイト先のコンビニからマンションまでは歩いて10分くらいで、その間、特に会話をすることもなく歩いた。
マンションに着いた時も、白石くんは特に何か言うわけでもなく、黙ってエレベーターに乗ってわたしの少し後ろをついてきた。
家の中に入った後も白石くんはノーリアクションで、既に設置済みのパソコンの横にもうひとつ持って来たイスに座って、わたしがキャラ設定をする様子を見ていた。
時々、書いてあることの意味がわからなくて詰まったり、選択肢にどっちを選んだらいいか悩んだりした時、質問すると丁寧に説明してくれた。
それから一通り、コントローラーの使い方と、まずは何からすべきかを教えてくれた。
「ちょっとプレイしてみてください。見てますから」
「うん。ありがとう」
ゲームにログインすると、画面には草原のようなところにポツンと立っている自分のキャラが映し出された。
ようやくスタートできると思うと、嬉しくて目が潤んでしまう。
「今……何……してますか?」
「え? 前に進もうとしてるけど?」
「どうしてジグザグ歩いてるんですか?」
「あー……どうして?」
「僕に聞きますか?」
「コントローラーの上押すだけじゃないですか?」
「おかしいね。どうして?」
「だから、どうして僕に聞くんですか」
白石くんがわたしを見て困ったような表情を見せた。
「すみません、きつく言い過ぎました」
「え? 全然大丈夫だよ?」
「泣かせるつもりは……本当にそんなつもりはなかったんです」
「泣く? これは違――」
白石くんが自分の服の袖でわたしの涙を拭った。
それはあまりにも自然で――
まじまじと白石くんの顔を見てしまった。
「すみません。ついいつもの調子で」
「ううん。ありがとう。でも、これは白石くんのせいじゃなくて、ようやくスタート地点に立てたのが嬉しくて出ちゃった涙だから。そんなに簡単に泣いたりしないから安心して」
「……ビビらせないでください」
「ごめんね」
ゲームの中のわたしは、まるで酔っ払いのようにフラフラと前に向かって進んで行く。
そして、目の前にゆらゆら揺れている物を見つけた。
「あれ何だろ?」
「魔物ですね。まだ始めたばかりだからレベルアップするためにも戦ってみましょう」
緊張しながら何度もうなづいて、魔物に近づいた。
突然、動画の中で見たことのある戦闘の画面になった。
想像の中のわたしは、何度も剣で簡単に敵をやっつけている。
でも、実際は……あれっ?
「そいつに向かって剣を振り上げてください。何もないところじゃなくて」
「おかしいよね。そうしてるつもりなんだけど」
「あ……」
モタモタしているうちに向こうから攻撃された。
「避けてください」
「よ、避ける?」
ぐるぐる回るだけで全く避けられない。
「少しは真面目にやってください」
「やってる!」
「まさか、アレ、本当だったんですか?」
「アレって?」
画面にGAME OVERの文字が表示された。
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