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「昨日も誰かさんのせいで最悪でした」
「ごめん……反省してる」
「そろそろやめようって言った直後に魔物の群れに向かってくとか、ありえません」
「違うの、どうしてだか群れてる方に向かって行っちゃって……」
「これ、何かもらわないと割に合わないやつです」
「うん。わかってる。次回、クッキー焼いてくるから」
「チョコチップのやつ」
「わかった。チョコチップのね」
バイトの前後、白石くんと話す機会が増えた。
ほとんどがゲームの話だったけど、同じ時間に終わる時は途中まで一緒に帰ったりするようになった。
「いつも10時くらいに来るおじいちゃんわかる?」
「あの、パンを1個だけ買う?」
「そう、その人。昨日も今日も来ないから心配してたんだけど、シフト終わる直前に来てて」
「4時くらいに来てたの見て、めずらしいと思ってました」
「『お体大丈夫ですか?』って聞いたら、『泊まりで孫が遊びに来てたんでここまで買い物に来なかったんですよ』って、教えてくれて安心した」
「マジで聞いたんですか?」
「そうだよ? それでね、毎日1個だけパンを買ってるのは、次の日の朝に食べるパンで、それを買わないといけないという気持ちで家からコンビニまで往復30分歩くことを運動にしてるんだって」
「もしかしてわざわざ遠いコンビニに通ってるってこと?」
「そうみたい」
「へぇ」
「コンビニはいろんな年代のお客さんが来るから面白いよね」
興味があるのかないのかはわからないけれど、白石くんは最後まで話を聞いてくれる。
「確かに。カフェとかでやってたら同じ年代の人間としか出会わない」
「働いてる人もね。白石くんにも会えたし」
そう言って白石くんを見ると、にこにこしながらわたしを見ていた。
「何?」
「ワイロ。今日は洞窟に入って水晶探すって前に話したから、絶対何か持って来てると思って」
「いつもあるとは限らないよ?」
真面目な顔をして言ってみる。
「そっか……そうですね」
あからさまにしょんぼりするの?
「持って来てるよ」
ガドーショコラの入った袋を渡すと、リアル白石くんは笑顔になった。
「やった!」
「その代わり、よろしくお願いします」
聞いてるのか聞いてないのか、白石くんは渡した袋を陽に透かしてみたりしていた。
紙袋だから透けないのに。
夜になると今度は、2次元の白石くんに会う。
【KOTA:苦くて美味しかった ガドーなんとか】
【HARU:ガドーショコラね】
【KOTA:前に同じような物を食べた気がするけど やたら甘かった記憶がある】
【HARU:砂糖控えめでビターチョコ使ったから】
【KOTA:彼氏にも作ってたんですか?】
【HARU:一回だけね 甘いの嫌いって言われてそれから作らなかった それにもう】
【KOTA:そこ近づかないで】
【HARU:そこって? 何かキラキラしてる】
【KOTA:さわらないで!】
画面の中のキラキラにわたしのキャラがふれた途端、地面がぽっかりと穴を開けて、2人もそこへ落っこちた……
【KOTA:いきなり落とし穴に落ちて 周りを魔物に囲まれるとかありえない】
【HARU:ごめん】
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