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傘
今日のバイトは、久しぶりに白石くんと入れ替わりのシフトだった。
最近は同じシフトのことが多いからめずらしい。
「今日は遊べないから、1人で遠くに行かないでください」
「行かないってば」
「お先に失礼します」
「お疲れ様です」
前までだったら、ちょっとした会話すらなかったのに、今は話さないでいることがない。
白石くんが帰った後、レジ周りを片付けていると、バタバタっと1人の男性客が入って来た。
満田さんがそのお客さんに声をかけた。
「もしかして外、雨降ってきた?」
「いきなり!」
男性がビニール傘に手を伸ばしたところで満田さんがまた話しかけた。
「そっちじゃなくて、向こうに折り畳みが売ってるからそっちにしなさいよ。値段変わらないんだから」
「折り畳み?」
「後で会社に置いとくなり、車に積んどくなりできるでしょ?」
「ああ、そっか」
わたしの視線に気がついて、満田さんが笑った。
「相原さん、会うの初めてだっけ? この間抜けズラは息子」
「『間抜けズラ』は余計だろ」
「ごめんねー」
「外に看板みたいなの出てたけどいいの?」
満田さんの息子さんが言うのを聞いて「入れて来ます」と一言告げて外へ出た。
自動ドアを出てすぐの所に、キャンペーン中の商品やオススメを書いたスタンドボードを置いている。
それを店の中に入れようと持ち上げた時、ふと白石くんは傘を持ってるのか心配になった。
ロッカーに折り畳みがあるから――
そう思った時、紺色に白の小さなドットの傘が目に入った。
傘を持っていたのは女の子で、お店の裏側にある従業員出入り口の方へ向かって走って行った。
すぐにその子は相合傘をしてまた視界に戻ってきた。
さっき女の子が持っていた傘を今度は白石くんが持っていて、女の子はぴったりと白石くんにくっついている。
白石くんは女の子の方に傘を傾けていて、そのせいで自分の肩は雨に濡れていた。
スタンドボードを持ってコンビニの中へ入ると満田さんが驚いた声をあげた。
「相原さん、控室行って拭いておいで! びしょびしょだよ!」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないって。髪の毛から水が滴ってる。こっちはいいから、拭いておいで」
「……すみません」
「タオル持ってる?」
「持ってます」
控室に戻って、カバンの中からハンドタオルを出すと髪の毛を拭いた。
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