お泊り

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お泊り

午後からの授業だったけれど、早めに大学に行って、沙穂と食堂でお昼を食べた。 「なーんか元気ないね?」 「昨日、シフォンケーキ失敗したからかな」 「めずらしい」 「今のレシピに辿り着いてから失敗なんかしたことなかったのに」 「……長岡くんのこと気にしてるの?」 「長岡くん?」 「違った?」 「すっかり頭になかった」 「だったら、何に気を取られてたの?」 「何に……」 「しょーもないことに悩んでるなんてらしくないよ? 気になることがあるならはっきりさせたら?」 「気になること……」 「さっきから歯切れ悪いね」 「そうだね」 「長岡くんじゃないなら、例の高校生?」 「えっ?」 「やっぱり」 「そんなんじゃない」 「じゃあ、どんななの?」 「どんな……」 「アイドルに沼落ちする時っていうのは、いきなりなのよ。難しく考えなくていいんじゃない?」 「沼……」 「くだらないことで悩んでないで、課題のレポートでもやったら?」 「それ、もうやったから」 「嘘っ!」 「課題が出た日に済ませたけど?」 「あー、そうだった。由希は夏休みの宿題を早々に終わらせてから遊ぶタイプの人間だった」 「沙穂はギリギリにやるタイプだったよね」 「そうだよ。だから手伝って」 「いいよ。どこでやる? 久しぶりにうちに泊まる?」 「そうしよっかな」 「親戚の人うるさい?」 「由希の家なら大丈夫」 「わたしって特別なんだね」 「違うよ。由希パパが特別なの。うちにとっても親戚にとっても大切な取引会社だからね」
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