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売店に近づくにつれ、その明かりでベンチに人が2人座っているのが見えた。
そのうちの一人が長岡くんだったけれど、話しに夢中でわたしに気が付かない。
「――それで、最後の3分ってとこで、シュートが決まって逆転! あれはすごかった」
「リリも見てました! あの時、気がついたらテレビの前でぐーしてました!」
「わかる! 1人で『よっし!』って言ってた」
「ですよね! 残り5分ってくらいからもうずっと力入ってたから、逆転した後、今度はふあぁ、ってなっちゃて」
「確かに、力抜けた」
「渉先輩、途中、反則されたの見てました?」
「見てた。なんで審判あれで反則取らないんだよ!ってテレビに向かって言ってた!」
「リリもです!」
盛り上がってるところを邪魔しても悪いし、どうしようかと思っていると、女の子の方がわたしに気が付いて、長岡くんのジャケットの端をつんつんと引っ張った。
それで長岡くんがようやくわたしの方を見た。
「待たせてごめんね」
「声、かけてくれれば良かったのに」
「楽しそうだったから」
長岡くんが立ち上がると、隣に座っていた女の子も立ち上がって、長岡くんに向かって言った。
「彼女さん?」
「あ、うん」
女の子はわたしに向かってにっこりと笑いかけた。
「2人で盛り上がっちゃっててごめんなさい。渉先輩、ちゃんと紹介してくださいよ」
「同じ社会学部の、1年の烏丸リリさん」
「初めまして」
「こんなきれいな人が彼女さんだなんてリリびっくりしちゃいました。渉先輩、浮気なんかしちゃダメですよ!」
烏丸さんはわたしの方には見向きもせず、上目遣いに長岡くんを見つめた。
長岡くんはそんな烏丸さんの視線に気が付いて、ふいっと目をそらした。
ああ……そういうことか、と思った。
恋愛の経験値はないに等しいけれど、女の子に関しては伊達に6年も女子校に通っていない。
彼女の表情の意味するところには察しが付く。
わからないのは、長岡くん。
こればっかりはわたしには未知数すぎて、その表情や態度からは何を考えているのか読み取れない。
「渉先輩、さようなら。彼女さんも」
烏丸さんがわたしに向かって微笑んだ。
「行こう」
長岡くんがわたしの肩を引き寄せて、烏丸さんから遠ざけるように歩き始める。
「ねぇ、もう暗いのに彼女、ひとりで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。いいから行こう」
そう言われたけれど気になって振り向くと、烏丸さんはまだそこに立っていて、こちらをじっと見ていた。
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