634人が本棚に入れています
本棚に追加
先生はやさしく微笑みかけてくれたが、その視線はとても力強く感じた。
胸の奥がぎゅっと鳴る。鼓動が高鳴る。指先に汗をかく。
彼だけでなく周囲の生徒たちまで私に目を向けるので急に恥ずかしさが込み上げてきた。なぜこのような状況になっているのかわからないけれど、この現実を受け入れるべきだろう。
先生がゆっくりと近づいてきた。ので、私はうつむいてしまった。
勇気を出さなきゃ。手紙をわたすんだ。
緊張しながら何度も自分に言い聞かせる。
先生が私の目の前で立ち止まった。ゆっくりと視線を上げると、彼の笑顔が目に飛び込んできた。
ドキドキしすぎて倒れそう。
先生があまりにも近すぎるものだから視界がくらりと揺れた。
私は大胆なことを考えている。このまま先生の胸に倒れてしまおうか。そんなバカなことを頭に思い浮かべていると、彼が私に話しかけた。
「俺に何か言いたいことがあるんだろう?」
どきりと鼓動が大きく跳ね上がった。
先生は涼しげな顔で口もとに笑みを浮かべている。
言いたいこと。それはある。けれども。
こんな大勢の前で言えるわけがない。そもそも、言いたいことを口にすることは、生徒の私には許されない。
最初のコメントを投稿しよう!