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今までの気持ちをしたためるのではなく、ただ、頭に浮かんだことをさらさらと書いて、それを先生に借りた参考書の一番最初のページに挟んでおいた。
誰かに見られても、それが私の告白だと気づかれる心配はない。むしろ、誰も深い意味など考えたりしないだろう。
そのラブレターは、先生にだけ伝わるように書いたのだ。
彼は気づいてくれるだろうか。それともスルーされるかな。
その夜は緊張しながら眠った。
参考書を手に持ち、私は学校で先生を探しまわった。しかし、教室もトイレも職員室も図書室も、体育館も校庭も、あらゆる場所を探してみたが彼を見つけることはできなかった。
それどころか、他の生徒も先生も誰もいない。まるで自分がこの世界でひとりきりになってしまったかのようだった。
オレンジと白が混じったような夕暮れにしてはあまりにも不思議な空間に、私はひとり立っている。やがて見えてきた靄のかかった廊下をゆっくりと歩いた。
早く先生にこれを返したい。正確には手紙をわたしたい。
自然と参考書を持つ手に力が入る。
しばらく進むと、廊下の窓から光が射し込んできた。夕日、ではなく明るく白い光だ。するとその先に集まっている人たちを視界に捉えた。
先生と数人の生徒たちだった。
彼らは談笑していた。その楽しげな笑い声が妙に頭に響いてくる。
先生がひとりになるのを待つことにした。けれど、いつまで経っても状況が変化することはなかった。あきらめて出直そうかと思い、静かにその場を離れようとした。
そのとき。
「上山」
先生に呼び止められてしまった。
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