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「別に、何も……」
小声でそう言うと先生はにっこりと笑った。
「ちゃんと答えてやるから、言いなさい」
「えっ?」
びっくりして声が上ずった。
それは無理です。あなたは答えることはできません。だって、あなたは先生だから。
それに、婚約者だって……。
「ちゃんと気持ちを話してくれれば、こちらも誠意を持って答える」
先生の言葉に激しく動揺した。
誠意を持ってって……それ、私は期待をしてもいいのですか?
普通に考えてあり得ないのに私の胸中は期待感であふれた。
不思議な光景だ。
周囲はみんな、笑っている。
それはからかうような嘲笑ではなく、まるで見守ってくれるような微笑みだった。
どうしよう。言ってしまおうか。
今なら先生は私の期待どおりの答えをくれるかもしれない。
「先生、私は……」
先生は変わらず笑顔だった。
周囲も笑顔のままだった。
あたりは不自然なほど静かで私の声だけがやたらと響く。
「あ、あなたのこと、が……」
心拍数が一気に上昇し、緊張感はマックスに到達した。
勇気を出して続きを言おうとしたら。
「へっくし……」
思いっきりくしゃみが出てしまい、その言葉は消え去った。
先生と周囲の生徒たちは笑顔のまま、遠のいていった。
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