0人が本棚に入れています
本棚に追加
「キャーーーッ!」
今度は研究室の方から絹を切り裂くような悲鳴が聞こえ、ワタシは慌ててそちらに向かう。
「どうしたんです?!」
「来てくれたの、良かった……」
ワタシを見て安心したかのように笑うメルだが、少し表情が固い。研究室から廊下に飛び出して震えながら、指した先をゆっくりと見た。
「む、むしが……、虫が!」
「どこから入ってきたんでしょう?」
そこにいたのは小さな小さな、虫が一匹。
どうにか捕まえ手のひらに乗せて、窓から外に放つとすぐにその姿は見えなくなった。
「その手でさわらないでよ!」
思春期の子どもみたいな反応を見せるメルを安心させるためにも、キッチンにまた、とんぼ返りで慌てて手を洗いに行く。
パシャパシャと流れる水が冷たい。
ついでに廊下に点々と残った粉だらけのスリッパの痕跡を、濡らした雑巾で消していく。
全く世話が焼けると、呆れながらも、やはり憎めない。
最初のコメントを投稿しよう!