0人が本棚に入れています
本棚に追加
ショッピングモールでお買い物
「似合う服、何かあるかなー!」
無邪気に笑うメルを携えて、ショッピングモールに到着したワタシは、目的の服屋へとずんずん進んで行く。充電はもちろんバッチリだし、服屋に行くための服がないということもないので、堂々と歩ける。流石にぶかぶかの白衣姿は目立つので、ワタシが小さい頃に来ていた服を着せているが、案の定不服そうであった。
「ちょっと待ってよー!あっちのお店見たい!」
ワタシの袖をぐいぐいと無遠慮に引いて、メルは目的地から離れた店に、どうにかワタシを連れていこうとする。
「服を買いに来たんですよ、あの店は目的の場所ではありません」
「ちょっとくらい、いーじゃん、ケチ!」
「ケ、ケチ……」
生まれてこの方、ケチと言われたことはない。もちろん、バカとも。
メルがどうしてもと行きたがっている店の看板を見ると雑貨屋のようで、キラキラと店内にある色とりどりの商品が非常に眩かった。
「仕方ないですね。ちょっとだけなら、良いですよ」
「やったー!」
またもや計算外のアクシデントに、少し微笑ましく思いながら、店内に引っ張られていく。
「これはなに?」
商品に負けず劣らず、目を輝かせてはメルは一つ一つワタシに質問をしてくる。
「これはストームグラス。中に入ってる液体の状態で、天気を予測するものです」
「えー、欲しい!」
「これなら、研究所で作れます。不必要です」
メルは駄々を捏ね、わざとらしく頬を膨らませるが、ワタシとストームグラスの器を交互に見ると、にっこりと笑う。
「じゃあ、じゃあさ、今度一緒に作ろうね!」
「分かりました」
その後もゆっくりと店内を一周していくと、満足したようで、大人しく店を後にする。
二人並んで歩いていたその時、前方から小さな男の子が駆けてくるのが見えた。
「あ、危ない!」
ワタシたちが気づいた時にはもう、男の子はよろけていて、そのまま地面に突っ伏していった。みるみるうちに、笑顔が曇り泣き顔に変わっていく。
「あ、うう、ぐす……」
「大丈夫?もう、急に走ったらダメって言ってるでしょ!」
「怪我はないか?!」
すぐに母親が男の子の元まで駆け寄り、ハンカチでその涙を拭い、父親は男の子の身体をぎゅっと抱き締める。
「よしよし、パパが向こうでおいしいアイスを買ってあげるからな、泣くなよ」
「うん、ママ!パパ!」
絵に描いたような家族団欒の様子を目の当たりにし、呆気に取られていると、メルが急かすように歩を進める。
「モル、行こ」
その目はまだあの家族を、名残惜し気に見つめていた。
「……やっぱり家族が羨ましいですか?」
「ううん、モルが居てくれるから、気にならないよ」
天才だと崇められ、両親もいなかったワタシには分からないが、やはり普通の家庭で普通アンドロイドとして過ごす方が、メルにとって幸せで心地よいものだろうか。
いつものように笑うメルの顔を眺めながら、そんなことがふとよぎってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!