2「孤独な公爵令嬢」

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2「孤独な公爵令嬢」

デルテ・エーレンシュトラールは、公爵家の長女であり、末っ子として生を受けた。 王家の次に高い爵位を持つ家に生まれたデルテだったが、その日々は決して幸せとは言えなかった。 エーレンシュトラール公爵家では、夜の食事は家族揃って取る。 公爵家当主、モルゲン。 長男、グリュック。 次男、フリーデ。 そして長女、デルテ。 女当主であるはずの母は、この当時の10年前、デルテを産んだ際に死亡している。 それからはこの四人で、食事用の長テーブルを囲んで食事を取っていた。 「……グリュック」 食事が始まって少しした頃、手を止めたモルゲンが口を開いた。 モルゲンは、このとき40歳で、短く切り揃えられた、クセのない銀髪を持っていた。 いつも眉間に皺が寄っていて不機嫌そうに見えるが、高い爵位を持つ者としては威厳を感じさせる顔つきでもあった。 「はい、父上」 答えたのは、長男のグリュック。 肩まで伸ばした父親譲りの銀髪を後ろにまとめ、やや神経質そうな顔つきをした20歳だ。 「近頃は、帳簿の管理を任せていたが……問題ないか」 「まだ教育係の手を借りてはいますが……だいぶ慣れて来ました」 「そうか」 「このままいけば、問題なく領地運営の知識を身に着け、父上の補佐を始められます」 「……期待している」 短いやり取りではあったが、父と息子の信頼関係を感じさせる。 「フリーデ」 「はい」 次にモルゲンが声をかけたのは、次男・フリーデ。 モルゲンやグリュックの持つ銀髪よりも少し紫色が入っており、かなり短く刈り込んでいる。 父や兄と同じように細面ではあるが、目は大きく、二人よりも多少人懐こそうに見える顔つきをした18歳の青年だ。 「騎士団での活動はどうだ。ナハトにしごかれているのだろう」 ナハト――ナハト・レンネンリッターはモルゲンの弟であり、今は公爵家所有の騎士団エーレンシュトラール騎士団の団長である。 「確かに叔父上のしごきは厳しいですが……やりがいがあるので、問題ないです」 「ならよい。騎士団は領地の治安維持にも関わる大事な組織だ。将来団長となるべく、研鑽を積むように」 「もちろんです。最近は、父上が連れ帰られた少年が下働きをしてくれるおかげで、団員たちも鍛錬に集中できているんですよ」 「……そうか」 兄グリュックは生真面目に見えるのに対し、フリーデは明るく親しみやすさがある。 「……」 兄二人との会話のあと、再びモルゲンは口を閉じ、食事を口に運ぶときだけ開ける。 ――デルテに話しかけるどころか、目を向けることもなかった。 モルゲンと兄たちの会話が途切れるたびに、すぐ話せるようにと食べる手を止めていたデルテだったが―― (……今日も、話しかけてもらえなかった) モルゲンは元々口数が多い男ではなかったが――デルテに話しかけないのは、今に始まったことではない。 今はもういない乳母やメイドたちの噂によれば、女性そのものがあまり得意ではない、らしい。 れっきとして公爵家の一員であるし、こうして食事にも呼ばれている。 最低限の生活は保障されてはいるのだが―― (また、言えなかった……) デルテにはこのとき、父親にあることを告げるタイミングを見計らっていた。 (今日の夕食のときには、ちゃんと言わなきゃ……) 翌日の朝食を終えたデルテは、食堂から自室に戻ってきた。 自分に言い聞かせながら部屋に踏み入れると――嫌な気配がして、立ち尽くしてしまうことになる。
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