2「孤独な公爵令嬢」

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(この家じゃ、わたしの味方は誰もいない……!) そんな悲しさを少しでも振り払おうと、デルテは走り続けた。 デルテが生まれて10年間、こんなに必死に走り回ったことはなかった。 公爵家の邸宅内は広く、庭園も存在する。 最近はしなくなったが、以前はメイドを伴って散歩をしていたような場所を、全力疾走。 途中で庭師が目を丸くしていたが、そんなことに気づく余裕すらない。 だが本当に、本当に少しだけ――息を切らして走ることで、胸の奥の悲しさや苦しみが薄れた気がした。 そうして最後にたどり着いたのは――エーレンシュトラール騎士団の寮や訓練場が配置された敷地との境目だった。 一応、背の低い柵があり敷地の境界はハッキリしているが、子供でも簡単に乗り越えられるくらいのものだ。 有事の際、騎士たちが屋敷に駆け付けられるようになっているらしい。 同時に、柵の間には井戸があり、公爵家の使用人たちと騎士団で共有の水場として使用されている。 (こんなところまで来ちゃった……怖い人たちがいるから、あまり近寄らないようにしてたのに) エーレンシュトラール騎士団は、公爵家を守るための武力であると同時に、領地内の安全を守る組織でもある。 いわゆる実力行使を許された団体でもあるため、荒くれ者も存在した。 団長である叔父・ナハトが制御してはいるが、それでもメイドたちからは恐怖の対象で、その話を聞いていたデルテも同様だった。 (早く戻らなきゃ……でも、疲れすぎて動けない……) 疲れと筋肉の悲鳴に従い、屋敷の壁に手を突くとその場に座り込むデルテ。 すると、井戸の近くに――目新しい人の姿が見えた。 「……」 黒の短髪に、大きな黒い瞳。 年は、デルテと同じか、少し上くらいの少年。 そんな子供が、汚れた洗濯物が積み上がった桶を前に、一つ一つ手洗いしている。 (うちの使用人にしては、格好が変だし……誰だろう?) この出会いが、デルテの人生の振る舞いを良くも悪くも左右するものとなる。
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