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2.金田カンパニー
聡美を乗せた車が金田カンパニーに到着する。
車から降りる聡美と恵子。
「へー、これが金田カンパニー!」
金田カンパニーのビルを一目見た聡美は感嘆の声をあげた。
名前だけは知っていたが、実際にビルを見たのは初めてだった。
「埼玉にこんなビルがあったなんて!」
「こっちです」
恵子がてくてくと歩いていく。
「待ってください、警部補」
恵子は立ち止まって振り返った。
「はい?」
「金田警部補は、金田カンパニーの社員と面識があるのではないですか?」
「どういうことですか?」
「内部犯の場合、犯人に面が割れてるのではないかと思って」
「それなら大丈夫です。私はここに来るのは初めてなので」
「そうですか」
「行きますよ」
恵子はビルのエントランスに向かって歩き出した。
「あ、待って」
聡美が後を追う。
ガードマンが入り口で二人の前方を塞いだ。
(セキュリティもしっかりしてるんだなあ)
「社員証はありますか?」
聡美が警察手帳と同タイプの探偵手帳を取り出した。
警察徽章の上部がアルファベットのPOLICEではなく、DETECTIVEと彫られている。下部は日本語で私立探偵だ。プロフィールには顔写真と名前と探偵業届出番号が。
「探偵さんですか?」
「金田 総一社長の息子さんの件で訪問させていただきました」
「あー、あの誘拐事件の。社内で噂になってましたよ。どうぞお入りください」
二人はビル内に入る。
「さて、社長に話を伺うか」
エレベーターに乗って最上階の社長室へ向かう。
「社長、探偵さんが」
秘書が総一に言う。
「通せ」
秘書が扉を開けて二人を招き入れた。
「下がれ」
「はい」
秘書は部屋から退室した。
「息子の件——」
総一は振り返りざまにそう言いかける。理由は聡美の美貌に見惚れたからだ。
「うひょー! 可愛い女子ちゃんじゃないか!」
ブチ!
額に青筋を立てた恵子が口を開く。
「ちょっとあなた? 私を差し置いてどういうつもり?」
その問いに総一は素っ頓狂な声を上げる。
「え?」
「この私がいるのに他の女に見惚れてるんじゃないよ全く!」
「お、お前もいたのか恵子」
そのやりとりを見て、聡美は後頭部に汗を一筋垂らす。
「あのー、お二方? 本題に入ってもいいですか?」
「あー、すまない」
服装を整える総一。
「それで? 何から話せばいい?」
「社長さん、単刀直入に聞きますが、あなたに恨みを持つ人物に心当たりはありますか?」
「うーん、特に思いつかないなあ」
「総一さんは素晴らしい人です。恨みを持つものがいるとは思えないわ」
「恵子の言うとおりだよ」
聡美は考え込む。
(当てが外れた?)
「恨みを持たれるとしたら恵子の方だと僕は逆に思うね」
「あら、どうして?」
「だって、君が逮捕してきた数々の事件の犯人。彼らの身内に、結末に納得してないものは大勢いると思うよ?」
「私の線で調べた方がいいのかしら?」
「僕の方でも監査入れたけど、有力な情報はなかったし、当てが違うんじゃないかな?」
「そうね……。坂上さんはどう思います?」
恵子が聡美を見て訊ねる。
「私も今、当てが外れたかなって思ってました」
「じゃあ、私の方を調べてみましょうか?」
「そうですね」
聡美と恵子は部屋を退室すると、一階に下りてビルを出た。
「警部補と社長さんの馴れ初めを聞いてもいいですか?」
「馴れ初めね。私ね、前夫がいたんです」
「いた?」
「ええ。前夫も警察官だったんだけど、亡くなちゃって。拓海はその時の子なんです」
「それじゃあ、社長さんは義父?」
「ええ。前夫が亡くなって、落ち込んでるところに彼が励ましてくれてね」
「その亡くなった警察官、なんて言う方ですか?」
「明夫です」
「え!?」
聡美が驚き戸惑う。
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