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3.殉職警官
「明夫です」
その言葉に聡美は驚き戸惑う。
「……?」
「いや、私の兄と同じ名前だったから」
「坂上 明夫?」
「そうよ。……うん? と言うことは、金田警部補の旧姓って?」
「今本です。今本 恵子」
「私の知ってる今本 恵子はふくよかな女性だったはず」
「失礼ね。警察大学校の訓練で痩せたんですよ」
「なるほど。だから警部補なんだ。でもなんで警察庁に?」
「明夫が亡くなった事件の影響かな」
「ああ、あの事件なら私が警察官時代に担当したわね。そっか、だから私に依頼しに来たのね?」
「思い出してくれた?」
「いやいや、当時とのギャップが違いすぎて気づかないって。ってことは、拓海くんが誘拐されたのって、二度目だよね?」
「そういうことになりますね」
「ちょっと突ついてみますか」
「突つくって?」
「拓海くんの最初の誘拐事件、共犯者がいましたね?」
「うん」
「監禁場所に明夫兄さんが突入して拓海くんを救い出したのはいいが、戻ってきた誘拐犯の仲間に殺害され、その仲間は逃走。もう一人の犯人は服役中だが、逃走した共犯者は未だに捕まっていない」
「そうですね」
「となると、その逃走した共犯者が、再び拓海くんを誘拐した可能性が浮上してきましたよ」
「そんなまさか?」
「拓海くんの行動範囲を洗ってみましょう」
聡美は恵子と共に車で拓海の通学路周辺を探った。
防犯カメラの映像を確認したり、近隣住民への聞き込みで、廃墟へと辿り着いた。
「ここに拓海がいるのかしら?」
「入ってみましょう」
扉を開け、中に進入。
階段が上下に分岐している。
「下に行きます」
と、恵子。
「じゃあこっちを」
聡美は階段を上がる。
一段一段音を立てずに上り、だだっ広い空間へと出た。
「拓海くーん、いるのー?」
反応はない。
パン!
階下で銃声。
聡美は階段を駆け下り、地下フロアへと向かう。
「う……」
そこには、床に倒れてうめき声をあげている恵子の姿があった。
「恵子さん!」
恵子に駆け寄る聡美。
胸に弾痕。肺を貫通していた。
聡美は一一九番通報で救急車を要請する。
到着した救急隊が、恵子を担架に乗せて、救急車に担ぎ込んだ。
聡美は車内の担架に横たわる恵子の荷物からスマホを取り出し、強制ロック解除コードを入力してロックを解除し、電話帳を見ながら自分の携帯で総一の電話に繋いだ。
「救急さん、今、旦那さんに連絡したので、病院まで来てくれるそうです。私は事件を追いますので、申し訳ありませんが降ります」
聡美は救急車を降りると、周辺の捜索を行った。
救急病院。
集中治療室で手術を受けている恵子。
執刀医たちは緊迫した様子で作業を行なっている。
それをまだかまだかと、総一が手術室の前で待っている。
上部のランプが消え、扉が開いてドクターが出てくる。
「妻は? 恵子は無事なんですか?」
ドクターは気の毒そうな顔で首を横に振った。
「そんな……!」
総一はその場に崩れた。
「なんで……なんでこんな……」
そこへ聡美がやってくる。
「総一さん、拓海くんを保護……?」
「今それどころじゃない。恵子が、恵子が!」
「え?」
「最善を尽くしましたが……」
「恵子さん、亡くなったんですか?」
「……………………」
ドクターは沈黙する。
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