5.解明

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5.解明

 聡美は廃墟付近の防犯カメラの映像を確認した。  顔はわからないが、女性のような不審者が、廃墟から慌てて逃げていく姿が映っている。  その映像を辿るが、不審者の特定には至らなかった。 (防カメでは限界か。あとは証拠と推理に頼るしかないわね)  聡美は、恵子の搬送時に拾った弾丸の線条痕を埼玉県警察本部の鑑識課で調査した。  結果、弾丸は明夫殺害時に盗まれていた拳銃であることが判明した。 (そういえば、お隣の東京でも誘拐がらみの殺人事件で警察官が銃殺されたわね)  聡美は警視庁へ飛んだ。  捜査一課で事件の証拠品として押収された弾丸について確認をすると、埼玉で起きている事件と同一の線条痕であることが判明した。  捜査資料を読み進めると、現場で犯人が落としたものと思しきバッチが押収されていることがわかった。そのバッチは、京極会という埼玉を根城にする暴力団の構成員がつけているバッチであると記録されていた。そこから京極会へ捜査のメスを入れたが、犯人逮捕には至らなかったという。  聡美は総一の元へ向かい、拓海が赤松家に泊まることを承知していたか訊ねる。 「拓海が? いや、幸子ちゃんという子の家に行くのは聞いていたが、泊まるとは聞いてませんよ」 「そうですか」  聡美は、刑務所に収監されている、赤松 雄三を訪ねた。 「久しぶりね、赤松 雄三さん」 「誰かと思えばあんたか。その節はどうも」 「単刀直入にお伺いしますが、拓海くん誘拐事件の共犯者は奥様ですねえ?」 「な、何を言ってるかわからないな」 「先ほど、埼玉で誘拐事件がありました。誘拐されたのは、拓海くんでした」 「え?」 「誘拐した犯人はあなたの奥様です」 「嘘だろ?」 「更に、殺人を犯している恐れがあります。知っていることを話してもらえませんか?」 「あいつ、また殺したのか?」 「最初の誘拐事件で警察官……私の兄なんだけど、奥様が殺害したことを認めますね?」 「あいつ、あんたの兄貴なのか?」 「そうよ」 「まあ、どうでもいいけどよ。そうだな。俺が収監されて、面会に来た時にあの警官を殺(や)ったって言ってたぜ」 「拳銃は? 拳銃はどこに隠すんですか?」 「あいつ昔、銃砲店の工場に勤めてたからな。部品さえありゃ拳銃の組み立てなんてわけないぜ。分解して京極会に隠したんだろうな。あいつ、京極会に親戚がいるから」 「そうですか。どうもありがとう」  聡美は刑務所を出ると、赤松の家に向かった。  インターホンを鳴らすと、幸子の母が出てきた。 「赤松さん、ここでは何ですので、場所を変えて話しましょう」  二人は近所の南越谷第一公園に移動した。 「話ってなんですか?」 「雄三さんに会ってきました」 「え? 「雄三さん、拓海くん誘拐事件の時に警察官をあなたが殺したと話してくれました。ここからは推理なんですが、聞いてください」  聡美は推理する。  昨晩、拓海を家に泊めた赤松は、早朝に金田家の郵便受けに脅迫状を投函。恵子が警察官であるということを事前に得ていた彼女は、拓海が廃墟に監禁されているように見せかけて、恵子をおびき寄せて地下フロアで銃撃。その後、聡美と鉢合わせする前に廃墟から逃走した。銃撃に使った拳銃は、前回の誘拐事件で盗まれたピストルであること。それを分解して京極会に隠していたのではないかということ。東京で警察官が殺害された誘拐がらみの事件で使われたチャカも同じものだと言うこと。 「——というのが、私の推理なんですけど、合ってますか?」 「動機は?」 「今回の事件の被害者たちは警察関係者です。東京で殺害された警察官は、金田 総一の弟、金田 総司(かねだ そうじ)です。つまり、拓海くん誘拐事件の被害者一族の殺害が目的です。そして最後は私を殺す算段でしたか?」 「ふっ!」  吹き出す赤松。 「全て正解で笑えるわ」  聡美は腰に装着しているケースから手錠を取り出す。 「赤松さん、誘拐及び殺人の容疑で緊急逮捕します」  赤松に手錠をかけようとした刹那、彼女は飛び退いた。 「……!?」  懐から拳銃を取り出す赤松。 「死ね、坂上 聡美!」  赤松が引き金を引く。  聡美は放たれた弾丸をかわし、拳銃を構える。 「銃刀法違反も追加するわね」  聡美は放たれた二発目の弾丸を自身の拳銃で撃ち落とす。 (ニューナンブM60の装弾数は全部で五発。こいつが弾数を満タンにしていると仮定したらあと三発は撃ってくるはずだ!)  聡美は次の発射と共に物陰に飛び込んで身を潜めた。 「隠れてんじゃねえよブスが!」  最後の二発を撃つタイミングを窺う赤松。 「こっちだよ」  聡美は物陰から物陰へと疾走する。  そこへ一発撃ってくるが、すんでのところで外れる。 「ふう、危ねえ」 「出てこいよメス豚が!」  聡美は物陰から飛び出す。  赤松は最後の弾丸を放った。  聡美は受け身で弾をかわし、赤松の方に拳銃を構えて引き金を引いた。 「……!?」  放たれた弾丸が、赤松の持つ拳銃にクリーンヒットして手の中から吹っ飛ばす。 「両手を挙げて、後ろを向きなさい!」  赤松は観念した様子で両手を頭の上に挙げ後ろを向いた。 「伏せるのよ」  伏せる赤松。 「両手を後ろに」  両手を後ろに持ってくる赤松。 「赤松さん、あなたを銃刀法違反の罪で現行犯逮捕よ」  聡美は拳銃をしまい、手錠を赤松の手にかける。  赤松を警察署に連行し、取調室を借りて事情聴取を行う聡美。  取調で赤松は事件の全容を語り、さいたま地方検察庁越谷支部に送検されるのだった。
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