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よく人の意を察す
ブルーシートの囲いを英吉さんと一緒に出て。
水がちょろちょろと流れる、沢のなり損ないの近くまで来た。ここなら事件現場の全体をよく見れる。
「さてと英吉さん。教えて欲しい」
「うん。被害者は峰倉隆65歳。死因は転倒による頭部外傷からの頭蓋内出血だろうね。見た目に大きな出血はなし。いやはや。打ちどころが悪かったんだろうねぇ。多分、頭を打ってから数時間は生きていたと思うよ。きっと酷い頭痛に悩まされたんじゃないかな。そして力尽きて死んだ」
「奥さんは?」
「峰倉和子65歳」
「なんで、死体遺棄だと?」
「遺体の衣服が丁寧に脱がされて、遺体の横に畳んであったから。畳まれた衣服から奥さんの指紋検出済み。同じく遺体に積まれた落ち葉や石にも奥さんの指紋がベッタリと出て来た。多分、そうやって遺体に細工したあと、気を失ったと思うよぉ」
「なるほど」
「以上だよぉ」
以上か。
英吉さんは分かる事実は教えてくれるが、何故、遺体の服が脱がされたのか。何故、遺体に細工までして遺棄をしたのか。そう言った動機を聞くと途端に貝の口になる。その動機などを調べるのが、俺達の仕事だろうと言う考えだった。
だから『以上』が出た後は下手な質問をしたら『ツマンナイ』とため息を吐かれてしまう。
それにこれ以上は他のデカ達の目が気になった。事件解決は即ち自分の手柄、昇給にも繋がること。だからこの現場の情報を知っている英吉さんは、誰も早めにコンタクトを取りたいのだ。
実際、次は俺だと。
ブルーシートの囲いから出て、こちらを伺う同僚の姿があった。
だから、これで最後と思い質問をした。
「なんで二人はこの現場に?」
「ん」
英吉さんの首から下げていた、一眼レフの液晶モニタに画像が映し出された。
そこにはきっちりと畳まれた衣類と、丁寧に置かれた一眼レフカメラに脚立。その他の撮影機材。先ほどのブルーシートの中には無かった先に回収された遺留物が画面にあった。
カメラの画面をじっと見てから。周りの景色をみる。
「この峰倉夫婦は、ひょっとして登山写真家か?」
「ふふっ。峰倉隆で検索したらいい」
「よし。それで充分だ。ありがとよ英吉さん」
そう言うと英吉さんはニヤっと笑って。
「ボク、手柄を立てるデカは好きだから。あの新米のお嬢サンも期待してるよぉ」
そう笑うと、丁度ブルーシートの中から天野が颯爽と飛び出してきて。こちらに気付いて一礼してからまた、カツカツと歩き出すところだった。
「天野が一人前になるのはもう少し先だな。でも、アイツは中々根性があるから。さてと、俺も行くとするか」
天野は奥さんを。
ならば俺は峰倉夫妻の詳細を調べようと思った。
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