人これを殺さんとすれば、

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人これを殺さんとすれば、

ビルの中。防音対策で区切られた小スペースが幾つも並ぶレンタルスペースはまるで、カラオケルームみたいだった。 「別に俺はどこでもいいけど、昨今。壁に耳あり障子に目あり、だしな」 情報漏洩を防ぐ為に、天野と事件に関する打ち合わせは良くここを利用していた。 先にフリードリンクのコーヒーと、天野が使うお手拭きを用意してブースに入る。 スペース内はシンプルに白い机と椅子が二脚。カラオケとは違い中は明るく、清潔で消毒液の匂いが微かにした。 コートを適当に掛けて。椅子に座りコーヒーを口に含んでいると、天野が扉を開けて飛び込んで来た。 その顔はまるで、学校でテストを百点を取って親に報告をする子供みたいな顔をしていた。 「周防さん、遅くなりましたっ。で、事故死ってどう言うことですか」 椅子にいそいそと座り「ありがとうございます」と、俺が用意していたお手拭きで手を拭う天野。 「それはこっちの台詞だ。犯人はサトリって何だって、まぁ。今から改めて捜査会議の内容を伝えてやるから。サトリや病院について分かったことはその後で聞く。いいな?」 はいと、頷く天野に手帳を懐中から取り出して、俺が調べた詳細も加味して、捜査内容をダイジェストで伝える。 「峰倉隆は転倒による頭部外傷にて死亡。その、妻。峰倉和子は心身喪失状態になり。夫の遺体から服を脱がして遺体に細工したあと気絶。そこを巡視員に発見。現場検証の結果、事件性はなしと断定。今後妻、和子の回復を待ち。事件の詳細を確認する」 動揺と言うところで天野がそわっとしたが、そのまま淡々と読み上げていく。 「峰倉隆は山岳写真家。妻、和子は専業主婦。子供はなし。夫妻は写真撮影の為に禁止区域に立ち入り。和子をアシスタントにして山岳写真を撮影していた。それは現場にあった、カメラに写真が幾つも残されていたことから推測。峰倉隆は随分と昔に山の写真集を発売していた。今はSNSで山岳の写真を掲載しているアカウント発見。以上のことにより、美臼に来た理由は写真撮影だ」 二人の情報を伝えると、じっくりと頷く天野。 「現場から少し離れた傾斜にて、血痕が発見された。それは峰倉隆が転倒して頭をぶつけた時の血液だと鑑定で確認済み」 「なるほど。隆は写真を撮っていた、もしくは移動をしていた。しかし。傾斜で足を踏み外して頭部を打撲か。死亡時間は?」 「死亡時間は今日の午前。詳しい時間は死亡解剖待ち。多分、朝から写真撮影して次のスポットに行こうとしていたところで転倒。休憩して昼前にはそのまま亡くなったと思われる」 「その間、妻の和子さんは病院や警察に連絡は?」 なしだと首を横に振ると。天野はなるほどと、ホットコーヒーに口づけた。
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