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先その意をさとりて
コーヒーを二口、咀嚼するかのように飲んでから。次は天野ターンになった。
「周防さんから、心身喪失って言葉が出たから病院での和子さんの状態は分かっているとは思いますが。報告しますね」
「あぁ」
「和子さんは病院に運ばれ、CTCスキャンなど検査をしましたが、体に異常はなし。その後すぐに目を覚ましましたが、心あらずで。相手の言葉を繰り返すだけ。意思疎通は不可能。先生曰く。夫が目の前で亡くなり。心身喪失状態になり奇行に走ったのだろうと。今は面会謝絶状態。私の他にも刑事はいましたが、誰も和子さんとは会えない状況。私達は簡単な説明を受けたあと、邪魔だと追い返されました。和子さん今後は精神科の病棟に移るそうです」
「言葉を繰り返す、か」
そう。この事件は夫が不慮の事故で死んでしまい。それを妻が見て。心に異常を来してしまった。年齢から鑑みて夫の死亡と言う、受け入れ難い現実から逃げ出してくて。心身喪失状態になるのはおかしい事じゃない。
じゃあ、服を脱がすのは? 石を積んだのは?
そんなの。本人しか分からない理由。
それは警察にとったら、どうでもいいのだ。
事件性がなく。事故死となった以上、その妻の心身喪失の状態の行動を調べるなど、警察には余裕がない。次の事件に備えるだけ。
だから、この事件は峰倉夫妻の状況が分かった時点で解散となったのだった。
犯人が居ない以上、手柄にはあり付けない。手柄がないものを追うなんて刑事としてナンセンスだが。ナンセンスは嫌いじゃない。
それに天野の『サトリ』発言も気になるから、こうしてここに集まったのだった。またコーヒーを口に含み喉を潤す。
「天野、何で犯人はサトリだと思ったか教えてくれ。流れは簡潔にな」
「はい。まずサトリとは。山に住み。人を惑わし、人の心を読んで言葉を繰り返す妖怪です。現状、私は和子さんが今どんな状態になっているかは分かりません。しかし、医師から追い出されたあと。本当に偶然なんですけど。病院の清掃係の人が、和子さんのご友人だと仰る方に会いました」
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