トゥギャザー

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 宇宙空間のちっぽけなスペース(地球)を借りて生きている、売れない底辺コメディアンの俺、山田鉄之助(50歳)には悪い癖があるんだよな。自分が、こうだ!と思ったことに対して突進してしまうって癖が、な。  はぁ…ため息が出るぜ。暴走した結果、これまでに何万回スベったネタを作り続けてきたか…。   はぁ… はぁ…はぁ…はぁ…ah...ha...ため息が止まらないぜ。  でも、悪癖があっての俺だからさ。悪癖を取り除いたアフターの俺は、そいつぁ、もう俺じゃない別の誰かになってしまうってわけで。やっぱり、俺は、良いところも悪いところもオールインワンの俺でいたいわけで。  ──っと何だぁ? 何か円盤型の光る物体が、俺の住むアパートの部屋の方に向かってくるぞ! ああ、もう! せっかく久しぶりに自己分析していたところなのに…おぉ、眩しいぜ。円盤の正体は、おそらくUFOってやつだな。うん。間違いねぇ。UFOが、今、俺の部屋を目がけて突っ込んできている。 パリーン!!  ガラスの破片が飛び散り、UFOが俺の部屋に突入してきやがった。俺の大切なギャグ集がUFOの下敷きになってるじゃねぇか! 「おいおい! 何してくれてんだよぉ!」俺は思わず叫んだ。「宇宙人さんよぉ、これじゃあ大家さんに怒られちまうよ。おまけに俺の大切な広辞苑より分厚いギャグ集が、ピザみたいにペラペラになっちまったじゃねえか…」  すると、UFOのハッチが開いて、緑色の小さなタコ型宇宙人が顔を出した。頭が大きくて、ゴルフボールみたいな2つの目が50cmくらい飛び出してる。おまけに、触手みたいなニョロニョロしたモンが20本くらいあるときた。 「申し訳ない、地球人よ」宇宙人は触手で頭を掻きながら言った。「私の操縦ミスだ。実は、我々の星では『銀河系一周ドライブ』というテレビ番組の撮影中でね」 「はぁ?テレビ番組?」俺は目を丸くした。「お前ら、テレビなんて代物持ってんのか」    驚いていると、宇宙人は得意げに日本語を駆使してペラペラと話し始めた。 「視聴率が銀河系No.1なんだよ。今回は『地球の田舎町で珍道中』という企画なんだけどね」  俺は天を仰いだ。「なんだよ、俺の部屋が『地球の田舎町』扱いかよ!ってか、部屋をぶっ壊すなよ! それに、取材班はアンタしかいねえのか!」  そう言いながらも、俺の脳裏にはピカーンと電球が灯った。そうだ、これは絶好のチャンスじゃねぇか!俺の人生、いや、銀河系を変えるチャンスかもしれねぇ! 「よし、決めた!」俺は拳を握りしめて叫んだ。「俺も一緒に連れてってくれ! 参加させてもらうぜ! 宇宙デビューといこうじゃねえか」  すると宇宙人は頭を膨らませて、驚いたような声を出した。 「え?しかし、急に君がいなくなったら家族や友人は悲しむのではないか?」 「あぁ? いねーよ、そんなモン。俺は基本的に群れて生きるのが嫌いなもんでね。縁はバッサバッサ切っていくタイプなんだ。さ、いいから! 連れていけ」俺は勢いに任せて言い切った。「地球代表として、銀河中の視聴者に笑いを届けてやるよ」  宇宙人は困惑した表情を浮かべたが、しばらく考えた後にうなずいた。「わかった。君の熱意に負けたよ。それに、君のような変わった地球人がいれば、視聴率も上がるかもしれない。さあ、乗り込んでくれ」  俺は大喜びで荷物をまとめ始めた。パンツ3枚、電動歯ブラシ、それから…そうだ、忘れちゃいけねぇ。UFOの下敷きになってた俺の秘蔵のギャグ集だ!  UFOに乗り込んだ俺は、興奮で体が震えていた。銀河系一周か…想像もつかねぇ冒険が待ってるぜ。  しかし、出発して数分も経たないうちに、俺は大きな問題に気づいた。 「おい、宇宙人さんよ」俺は不安気に聞いた。「この旅、どのくらいかかるんだ?」 「ああ、そうだな」宇宙人は触手で何か計算をしているようだった。「地球時間で…だいたい500年くらいかな」 「えぇぇぇ!?」俺は絶叫した。「500年!?俺、その間、ずっと地球外にいなきゃいけねぇのかよ!」 「もちろんさ」宇宙人は当たり前のように言った。「でも心配するな。機内にある最新技術で、君の寿命は十分に伸ばせるよ」  俺は頭を抱えた。これじゃあ、帰ってきたときには地球が滅亡してる可能性だってあるじゃねぇか。 「ちょっと待て」俺は必死に言った。「やっぱり降ろしてくれ。この旅、俺には長すぎるぜ」  しかし、宇宙人は首を横に振った。「もう遅いな。今さら引き返すのは不可能だ」  俺はがっくりと肩を落とした。もう後には引けねぇのか…。でも、まぁ、いいか。 「そうだ!」宇宙人が突然叫んだ。「君のギャグで銀河系を笑わせてくれ。でも、つまらなかったら、我々の星の動物園で『地球の珍獣』として展示することにする」 「珍獣!?」俺は目を剥いた。「おい! そいつぁ、あんまりだぜ」  すると、宇宙人は触手を揺らしながら不気味に笑った。「冗談だよ」  俺はため息をついた。当分の間、こんな冗談を聞き続けなきゃいけねぇのかな…。しかも、デビューに失敗したら珍獣になるかもしれねぇ。  そう思いながらも、俺の中で小さな希望が芽生え始めていた。そうだ、これは俺の人生最大のチャンスかもしれねぇ。銀河系で最高のコメディアンになってやるぜ! 「よし、覚悟を決めたぜ」俺は宇宙人に向かって言った。「俺は必ず銀河系の笑いの頂点に立ってみせる。覚えておけよ。そんで、珍獣どころか、銀河系の笑いの帝王になってやる。……しかし、500年の旅は長くなりそうだな」  俺の500年に及ぶ珍道中は、幕を開けた。  銀河系の笑いの帝王になれるのか?それとも、単なる「珍獣」で終わってしまうのか?  まあ、急ぐ必要はねぇよな。  このUFOの中で500年もステイできるんだ。きっと最高のギャグが山盛り生まれるはず。  …って、おい待てよ。やっぱり……500年もギャグを考え続けるのはキツすぎるって!  ちくしょーっ!  (了)
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