おかえりがあれば

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 夜の十時。  満月が出ている夜空は幻想的で美しく、仕事帰り、私は空を見上げる。そこにはぽつんと、一つだけお星さまがあった。  だけど満月が光り輝いているせいで、その星は影に隠れてしまっているみたいだった。  帰り道、私の心はとても静か。  ただ酔っ払いとか、女子会を満喫していたであろう女子大生とか、そんな人たちとすれ違うたびに思う。  ――心から楽しめるのが羨ましいなって。  家に帰れば、彼氏がいる。  この私の人生のなかで一番大切で、大好きで、いなくてはならない存在の彼。  だから私は生きていける。真っ直ぐな心は持っていなくていつも孤独だけれど、彼が支えてくれるから。  家に帰れば、「おかえり」と真っ先に言ってくれるから。  家のなかは、明かりが付いていなかった。  まるで誰もいないような、住んでいないような、そんな真っ暗闇。  鍵を開けて、私はゆっくりと玄関へ足を踏み入れる。  「ただいま」  家に入って、一言目はいつも「ただいま」だ。  だけど反応がない。いつもは「おかえり」と言って抱きしめてくれる彼の姿はどこにもない。  「……っ」   心が苦しめられて、私は思わず息を吸うのを忘れてしまう。  胸が――とんでもなく痛い。  「なんで、なんで……っ! どうして、死んじゃったの……」  もう、彼はこの世界にはいない。  彼の「おかえり」は聞けないんだ。  ――あの夜空に隠れている一等星は、もしかしたら彼なのかもしれない。  いつか彼の「ただいま」が聞けるまで、それまで少しだけ、お別れだね。  
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