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   桜色に染まる小さな山のてっぺんには薬の魔女と黒猫が住んでいます。  魔女は、山のてっぺんから湧き出るきれいな水で薬草を育てています。春先のやわらかな薬草は苦味も少なくて飲み薬を作るのにぴったりです。  いくつもの薬草の若芽の穂先を丁寧に摘みとり大鍋でやさしくかきまぜて作る魔女の薬は、お鼻のむずむずにとてもよく効くと評判です。  今日は山のふもとの村から薬屋さんがくる日です。  黒猫がにゃあにゃあとそわそわしている魔女を呼びました。 「こんにちは、魔女さん。すっかり春だね」 「いらっしゃい。ええ、桜がとってもきれいよね。今日の薬はこれでいいかしら?」  村の薬屋さんは魔女のお得意さまです。  黒猫も薬屋さんによっていって喉をごろごろ鳴らします。  魔女は飲み薬の入ったたくさんの瓶を並べて渡します。  紅梅や菜の花色や空色、それに若葉色にきらきら光る飲み薬の液体は、とてもきれいな宝石のようです。 「うん、ありがとう」 「どういたしまして──今日のおやつは苺たっぷりのゼリーを作っていますよ」 「それは僕の大好物だなあ」 「うふふ、一緒に食べましょう」  魔女はつやつやな赤色に染まったいちごをたっぷり使った苺ゼリーを用意して薬屋さんを待っていました。  ふたりはにこにこ苺ゼリーを掬いながら春にあった出来事を口にするのです。  おやつをゆっくり食べた薬屋さんは小さな山のてっぺんをおりて村へ戻って行きました。
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