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 茜色に染まる小さな山のてっぺんには薬の魔女と黒猫が落ち葉をながめて過ごしています。  魔女は、山のてっぺんに流れるきれいな風で薬草を育てています。秋に咲いた薬草の花は乾燥しやすいので粉薬を作るのにぴったりです。  いくつもの薬草の花を籠いっぱいになるまで集めて秋風とお月さまの光で作る魔女の薬は、こほんこほん止まらない咳にとてもよく効くと評判です。  今日は山のふもとの村から薬を取りにくる日です。  黒猫がにゃあにゃあとうきうきしている魔女を呼びました。 「こんにちは、魔女さん。すっかり秋だね」 「いらっしゃい。ええ、山のてっぺんから見るお月さまがとてもすてきなのよ。今日の薬はこれでいいかしら?」  村の薬屋さんは魔女のお得意さまです。  黒猫も薬屋さんの足をふみふみして撫でてもらうのをせがみます。  魔女は粉薬のたっぷり詰まった大きな瓶を重たそうに渡します。  橙や蜜柑色や山吹色、それに黄金色にきらめく粉薬は、とても魅力的な砂金のようです。 「うん、ありがとう」 「どういたしまして──今日のおやつは林檎パイを作っていますよ」 「それは僕の大好物だなあ」 「うふふ、それなら一緒に食べましょう」  魔女はあかく実った林檎をたっぷり使って果汁がじゅわりと溢れる林檎パイを用意して薬屋さんを待っていました。  ふたりは見つめあって林檎パイに添えたつめたいバニラアイスが溶けだすのも構わずに秋にあったことをささやきあうのです。  魔女の住まいで一週間まったりすごした薬屋さんは、小さな山のてっぺんをおりて村へ戻って行きました。
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