誰もいない家

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 俺は仕事を終えて家路に着いた。  ハードな仕事でくたくたになっていた。  家に入って、空気に話しかけるようにただいまと呟いた。  俺は一人暮らしなので、俺を迎えてくれる人はいないのは知っていた。  しかし、そこで予想外の声が聞こえた。 「おかえりなさい!」  俺はそう言って迎えてくれた人を激しく動揺しながら見つめた。  知らない綺麗な女性が眼前にいた。 「あんた誰だよ? あれ、俺は家を間違えたのか?」 「間違ってませんよ。私はあなたの妻です」  俺は言葉を失ってその場に立ち尽くした。  俺は訝しみながら、その人と話をした。  女性の名前は紗夜さんだと教えてもらった。  紗夜さんは俺と話しながらぼろぼろと涙を流していた。  俺と一緒に旅行した写真を見せてくれた。  紗夜さんは本当に俺の妻らしい。  俺は事態を受け入れようと頑張った。  たとえ妻を忘れるほど俺の認知症が進んでいたとしても。  俺は二十代という若さで認知症を患ったようだ。  俺は妻と一緒にゆっくりと苦しい人生を歩んだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加