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プロローグ
綺麗に整えられた日本庭園の橋の上で 、振袖を着た子どもの頃の私は悲しくて泣いていた。幼稚園に入ったか入らないかくらいの頃だろう。
その日はどこまでも青い空でとても良い天気だった。なのにとても悲しくて。
「どうしたの?」
優しい男の子の声がする。男の子の声で私は顔を上げた。私より少し歳上らしいその子と目が合う。 男の子はとても優しい目で、 私を見ていた。
天気の良いその日。私はとても綺麗な振袖を着せられて、髪も整えてもらっていた。
大人達の会合は子供の私にはつまらなくて、その会場をこっそり抜け出したのだ。
興味から、ふと覗き込んだ日本庭園の橋の上でお気に入りの花のついた髪留めを池の中に落としてしまった。
「っあ……」
慌てて手を伸ばしたけれど届くはずもなく、水の中に沈んでしまうお花を悲しい気持ちで見ていることしかできなかった。
──それが悲しくて悲しくて、泣いていたのだ。
「髪留め、お花がついているの……落としちゃって……」
「池に? 落ちちゃったの?」
優しく、男の子は私の頭を慰めるように撫でて、そう聞いてくれた。こくんと私は頷いた。
「お花、大好きなの……」
水に沈んで見えなくなってしまった……そう思うと、また目に涙が滲んでくる。
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