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2.嫌いになれればいいのに
美桜は食事を自分で作って一人で食べた。今まで両親とお手伝いさんもいた家庭でわいわいと団欒しながら食事をしていたけれど、今はとても広いダイニングに美桜一人だ。
「そうだわ! テレビを付けながら食べちゃいましょう」
自宅では禁止されていたことだ。
テレビからは楽しそうな笑い声が聞こえてくるけども、美桜にはそれが楽しいものだとは全く思えなかった。
一人になるとつい昼間のことを思い出してしまうのだ。
こんなところをふらふらするなと言われた。きっと迷惑だったのだろう。
どうにも柾樹に好かれている気はしない。疎まれているようだ。だったらなぜ柾樹はこんな婚約を了承したのだろう。
なにかと手間がかかって、 なおかつ好きでもない美桜の相手まですることは、柾樹にとって何のメリットもないのに。
「嫌いに……なれればいいのに」
それでも最初の優しい笑顔や今朝のお湯が指に当たった時の心配したような表情を思い出すと、美桜は柾樹を嫌いになることはできなかった。
* * *
「美桜……?」
柾樹が帰ってきた時、美桜はソファでクッションを抱いて眠ってしまっていた。
ダイニングテーブルの上には、おにぎりが置いてある。今朝は指を火傷していたし、無理しなくていいと言ったのに。
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