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「先日、山で源は俺の家族を亡き者にしようとした。つまり俺に罪を被せたいわけだ」
塀の内側に沿って植えられている木の影から、突然壱兄が姿を現した。
「壱!無事だったんだね!」
真っ先に駆け寄ろうとしたおっ母を、壱兄は片手を向けて制した。
壱兄の姿を見て「ひぃぃぃっ!」と情けない声を出したのはユキさんと源だ。
「三原の親父さんを殺したのは源だ。桂様も薄々気がついていたのだろう、息子が窃盗を繰り返している事を。そして、窃盗を目撃した三原の親父さんを殺してしまったのではないかという事を」
これは本当に優しかった壱兄なの?と思える程迫力のある声で、淡々と話し始めた。
「なんで、お前は生きているんだ。確かに……」と呟くユキさん。
「親父さんと別々に見回りしていて殺人を目撃した俺は源に殺され、仕事道具を奪われ、村外れに身体を捨てられたな。そう、俺は死んでいる。裁き山の主様の力で動けているだけだ」
信じられない話だが、壱兄がそんな冗談を言うはずがない。
私達は黙って壱兄の話を聞く。
「大方、ユキは二つの犯行を目撃して源を唆したのだろう。そして俺に罪を被せれば、それを理由にフミとも縁を切ることが出来、堂々と夏に結婚を申込めると算段したのだろう」
真っ青な顔をしたユキさんは、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
壱兄はゆっくり私とおっ母のもとに歩みより、優しい顔を見せた。
「夏に、幸せにしてやれなくてすまないと伝えて欲しい。おっ母、身体に気を付けてな。フミ、俺のせいでごめんな」
今回の事件に巻き込まれた事を言っているのか、ユキさんの事を言っているのか……私は静かに首を振った。
きっと食材を小屋に届けてくれたのも、源が襲撃に来た時に守ってくれたのも壱兄だ。
「壱兄、ありがとう」私は涙を堪え、一生懸命笑顔を作る。
壱兄は優しい笑顔を見せ、ゆっくり目を閉じその場に倒れ込んだ。
おっ母は壱兄の身体にすがりつき、声を上げて泣いた。
男衆が集まり、桂様の制止も聞かず源とユキさんを捕らえる。
私は裁き山の方角に向かって、深く一礼をした。
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