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雑木林の入り口付近で、複数の刺し傷がある三原の遺体が発見された。
前夜の大雨で殺害場所の特定は出来ずにいる。
村の男達はほぼ全員会合に出席していたが、三原は「近頃盗難の相談が増えていてな。ちょいと見回りに行ってくる」と会合が始まって早々に抜けていったという。
凶器と思われる、血のついた大工道具のノミが遺体から少し離れた場所で見つかった。
ノミには名前が掘ってあり、すぐに壱の物と断定された。
それだけで壱の犯行と決めつけるわけにはいかないが、壱は何故か昨夜の会合に現れなかった。
その上、三原と壱が言い争う声を聞いたと証言する者が現れた。
地主である桂家の放蕩息子の源だ。
源は会合には毎回面倒臭がって不参加で、会合が始まっている時間帯に雨の中夕涼みに土手を歩いていると、土手下に二人が居たという。
優しく、仕事での態度も真面目で、許嫁の父親である三原とも良好な関係を築いていたはずの壱。
そんな壱が三原を殺害する動機が無い。
しかし、やましいことが無いのであればなぜ壱は姿を現さないのだろうか。
「こうなったら、裁き山の主にお伺いするしかねぇな」
桂家当主が皆の前で言った。
「壱は姿をくらましとるで、代わりに壱の家族を裁き山に入れろ」
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