裁き山の主

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 履いてきた草鞋(わらじ)が擦り切れて、そろそろバラバラになると心配していた頃、ひどく廃れた小屋が現れた。 「坊主、よく頑張ったな」と男衆の1人がミトの頭を撫でる。  確かに鬱蒼とした森林にも二刻程の長い時間歩いた山道にも、ミトは一言も泣き言を言わなかった。  幼いミトなりに、唯一の男なのだから私達を守らなくてはならないと頑張っていたのかもしれない。 「小屋の中は荒れているが……住めなくはなさそうだ」  男が小屋の戸を開け、中を覗く。  戸の手前にゴザを敷き、そこに降ろした荷を積んでいく。 「いいか、生き残りたければよく聞け」  男衆3人が小屋の中に生えた雑草や蜘蛛の巣、生き物の死骸を片付けてくれている間にもう1人が私達3人に言い聞かせる。  懐から巾着を出し、中から親指大の種子のような物を2つ取り出した。 「これは『白月花』の蕾を乾燥させた物だ。これを潰した物を持っていれば、潰して一刻程の間、この裁き山の獣に襲われることはない。使い終わった蕾でも囲炉裏にくべれば、その臭いで7日間程辺りに獣が近づくことはない。その範囲内に湧き水が出る場所がある。小屋の上手(かみて)の小道を50歩ほど登って右側だ。  『白月花』が咲く満月まで小屋より下へ降りようとするな。下手(しもて)は臭いの効果が薄いから、獣が寄ってくる可能性があるからな。  ……いいか、絶対に生きて帰って来いよ」  そう言って男はおっ母にその蕾を握らせた。 「良いのですか?この蕾は……あなた方の帰り道の分ではないのですか?」  男はおっ母の言葉に苦笑いし「大丈夫だ。効力は薄いだろうが、3つは残っている。それに多少腕に覚えがあるから、獣が襲ってきても何とかなるさ」とこぼす。 「どうしてそこまで……」  目隠しの件といい、きっと桂様や村民達に知られたら叱られてしまうのではないか。 「……俺たちは皆、壱が人を殺められる人間じゃないって知っている。だけどこの裁きの山でアンタ達が生き抜いていけるとはとても思えないからな」 「ありがとうございます!壱の無実を信じて下さって、ありがとうございます……!」  私達3人は深々と男衆に頭を下げた。
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