裁き山の主

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 男衆を見送った後、早速おっ母が囲炉裏に火をつけ蕾を1個くべる。  ツンとした刺激臭の中にほのかに甘い香りがして少し苦手に感じ、慣れるまで時間がかかりそうだ。  私は空の桶を持って、湧き水を汲みにいく。  水が溜まるまでと背伸びをして辺りを見回すと、少し離れた先に赤い何かの実が実っている事に気がついた。しかし同時に大型犬のような動物が3匹ほど、その先からこちらをジッと見つめている事にも気が付き、慌てて身を隠す。  本当にこの臭いがあの獣たちを7日間も遠ざけてくれるのだろうか。  私は水が溜まった桶を持って、小走りで小道を降る。  小屋に戻るとおっ母とミトが、小枝でホウキを作っていた。  おっ母が履き出した場所を私とミトが雑巾掛けする。  所々の赤黒いシミが気味悪く、拭き取れなかった場所にはミトが集めた小枝を置いた。  掃除が終わる頃にはすっかり日も暮れて、『白月花』の臭いにも慣れてきた。おっ母は持ってきた食材を14日分に分け、今日の分で夕げを作ってくれていた。 「今日は疲れただろう。少し多めに作ったけど、明日からはこれより少なくなるよ」とおっ母がため息混じりに言った。  囲炉裏の鍋に汁気が多い雑炊。  多めと言っても3人で分ければいつもよりずっと少ない。 「私、水を汲みに行った時に何かが実っているのを見つけたよ。明日取りに行ってこようか」 「ダメよ、フミ。裁き山の主様のものを勝手にお取りするなんて。それに食べられない物を食べてお腹を壊したら大変よ。大丈夫、何事もなければ満月の日まで乗り切れるわ。もしかしたらすぐにでも壱の無実が証明されて、私達を助けに来てくれるかもしれない。壱を信じて、大人しく待ちましょう」  そう笑顔で答えるおっ母は、さっきから箸が進んでいない。  確かに下手に動いて怪我を負ってもいけないし、あの獣たちが襲ってこないという確証は無い。  獣の遠吠えを耳にするたび身をこわばらせながら、その日は早々に寝床についた。
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