裁き山の主

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 8日目の朝、湧き水を汲みに行った時のことだ。  ―――いる、近くにいる。  桶に溜まる水音に紛れ、確かに聞こえる獣の息遣い。  姿は見えないが、『白月花』の臭いが薄れるのは今か今かと待っている気配を感じる。  私は水が半分しか溜まっていない桶を抱え、大急ぎで小道を下る。 「おっ母!蕾…、蕾をくべなきゃ!もうそこまで獣が来ている!」  最初に蕾をくべたのは1日目の昼間だったので、もうほとんど消えかけているのかもしれない。  おっ母は、小屋の下手側で背を向けて座り込んでいた。 「おっ母!……何しているの?」  私の声に反応しないおっ母に不穏さを感じ、駆け寄った。  おっ母の視線の先を見ると、小道の入り口に山盛りの食材。  大きな木の実や山芋など、山で採れそうな旬の食材だ。  但し、その食材の近くで獣が数匹こちらの様子を伺っている。 「おっ母、早く蕾を頂戴!」  おっ母が懐から紙に包んだ蕾を出すと、私はそれを奪い火のついた囲炉裏に放り込んだ。  ほどなくして、強烈な臭いが辺りに立ちこめる。  座り込んだままのおっ母のそばに戻ると、食材はそのままに獣たちの姿は消えていた。  私は恐る恐る食材の山に近づき、手に抱えられる分を取りおっ母の元に戻る。 「それは……だめよ。主様の……」 「違う!きっと裁き山の主様が私達にくださったのよ!私達に、生きろって言っているのよ!」  そう言って多分ヤマボウシであろうその赤く熟れた実を、自分とおっ母の口に押し込んだ。 「……美味しい」「うん、美味しいね……」  涙を流しながら、その実を味わって食べるおっ母と私。  私は「主様、ありがとうございます!」と裁き山に響く大きな声でお礼を言った。
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