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私がまったく返事をしないことを不思議に思ったのか、神代さんもそちらの方向へ視線を向けた。
「あの人……」
神代さんの言葉に近くにいた先輩たちも何事かとそちらを見る。
「ああ、あれって噂のジュニアよ。書いてあったじゃない、新しい副社長の話」
「そういえば、アメリカ留学からジュニアが帰ってきて副社長に就任するって噂があったな」
部長と一緒にフロアのガラスで仕切られた個室へ入っていく彼らを見て、小声で話をしている。
仕立ての良いスリーピースのスーツを身にまとい、髪はビシッと撫でつけられ、シルバーの眼鏡をかけた背の高い男性だった。
「すごいイケメンですね」
新入社員の女の子たちも、ザワザワと噂を始める。確かにビジネス雑誌の表紙と言われてもおかしくないほどの整った容姿だ。しかし、それが問題ではない。私が間違えるわけがない。
『日向……』
この大企業のジュニアだなんて聞いたこともないし、彼の名前は河和ではない。
「秘書課の友達から聞いたけど、桜木銀行の頭取の娘さんとの結婚も決まってるとか言ってたわ。とうとう満を持して、隠し玉のジュニアの登場よ」
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