桜が咲く日

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ここから会社までは電車で三十分ほどかかる。初日は少し早めに行きたいこともあり、両親に瑠香を任せると、久しぶりのパンプスを履いて外に出た。 そして数十歩歩くと、私の身長の二倍はある高い塀が現れる。その塀に沿ってしばらく歩くと、ようやく大きな門が見えてきた。 私の家とは比べ物にならないほど大きな洋館。小さい頃何度も遊びに行ったお宅だ。 しかし、今は誰も住んでおらず、手入れされていた木々が伸びてしまっている。 昔は、そこには春子おばあ様と私より四つ年上の男の子の二人が住んでいた。 雪平日向。私の生まれた時からの幼馴染であり、兄であり、守ってくれる人だった。 くりっとした好奇心いっぱいの瞳に、抜群な運動神経。日向の家の庭の木に登ってはおりられなくなる私をいつも助けてくれていた。 「どうして両親ではなく、おばあ様と住んでいるの?」そう子供心に残酷なことを聞いてしまった時も、「二人は海外に行ってるんだよ」そう言って明るく笑ってくれる人だった。 家が隣同士。それだけでは片付けられないほど、私たちには絆があった。
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