桜が咲く日

7/17
前へ
/73ページ
次へ
しかし、いつの間にか学校でも、近所でも日向を見ることがなくなった。 慌てて隣のおばあちゃんに聞きに行った時には、日向はもうそこには戻らないことを知った。 『理由は話せないの』ごめんね。 そう言いながら、春子さんは一通の手紙を私にくれた。 『彩華、いい子でいろよ』 それだけが書かれた手紙。幼い私の恋心はその時あっけなく終わりを告げた。いや、恋と呼んでよかったのかもわからない。 そばにいすぎただけで、単なる思い込みだったかもしれない。 それから数年たち、ようやく私は日向のことを忘れ、大学生活を送り、大手の会社に就職も決めた。 友人もでき、それこそ男友達も数人いた。好意を持ってくれた人もいて、お付き合いをしたこともある。 手をつなぎ、キスをして、そして体を繋げる。ほとんどの人があたりまえにやっていることだ。そう思っていたのに、どうしても私は最後の一線を誰と超えることができなかった。 まるで日向の「いい子でいろよ」という文字が、私に呪いでもかけた様に、悪いことをしている気がしてしまうのだ。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2711人が本棚に入れています
本棚に追加