桜が咲く日

9/17
前へ
/73ページ
次へ
誰かが購入するにしても、かなり大きな邸宅で値も張るからだろう。そう両親が話していたのを思い出す。 買い手がついたのだろうか? 「ねえ、お隣って買い手決まったの?」 「帰るなり何? もう遅いんだから早く夕飯食べちゃってよ」 ただいまの挨拶もせずに尋ねた私に、母は呆れたように声を上げた。 気のせいだったのだろうか。もしかしたら空き巣とか……。 母が用意してくれた食事を食べながら、ずっとそのことが頭を過った。 「彩華、もう遅いから先寝るから、食器ぐらい洗っておいてよ。お父さんもとっくに寝てるからお風呂は静かにね」 母の言葉に適当に返事をしつつ、私は食事を食べ終えるとそっと家を抜け出した。 昔からどうしても気になると、確認しなくては気が済まない自分の性格を呪う。 隣の家と言っても、かなり遠い正門にはいかず、私はポケットからキーケースを取り出す。 そこには、小さな一つの鍵。この数年一度も使ったことのない鍵だ。 隣の屋敷の秘密の小さな扉。昔はお手伝いさんたちの入口だと聞いていたが、今は通いの人しかいなくなり、使わなくなったと聞いていた。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2714人が本棚に入れています
本棚に追加