ホテルの夜

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 【ホテル血ノ泉】は川岸に建つホテルで、真っ暗な山の中で光を放って私たちを無事に導いてくれた。  照明を暗めにした静かなロビーに私の足音が響く。 「先輩、チェックインお願いします。私たちはトイレに直行しますんで!」 「そらちゃん、あそこだ!」  泉巳くんと2人でフロントに一礼してからトイレに駆け込んだ。ギリギリセーフ!  洗面台の鏡を見たら、髪はボサボサで化粧のよれた疲れた顔の私が映っていた。  トイレから出ると、先にトイレを済ませた泉巳くんが都川先輩と何やら揉めている。 「どうしたんですか?」 「別に。シングルとツインを取ろうとしたんだが、シングルしかないそうだ」 「1部屋だけ4階であとは3階だって言うから、都川さんに上に行ってもらった方がいいよね」 「4階なんて不吉だから俺は嫌だよ。村野が行け」 「不吉だからなんて言ったら、1人で泊まる泉巳くんがかわいそうじゃないですか。私が4階でもいいですよ」 「町田はダメ。女性が1人で廊下を歩いたら危ないだろ」 「えー? 大丈夫ですよ」 「絶対ダメ」  そんなこんなで結局泉巳くんが403号室で、先輩と私が301と302号室となり、先輩がカードキーを配ってくれた。 「7階のレストランが7時までだそうだから、風呂は後にして先に夕食を食べに行こう」 「そうですね。カメラ以外、別に荷物もないし」 「ああ、なんか重いと思ったら、まだ俺がカメラ持ってたじゃないか」  トイレに行くのでカメラを預けた泉巳くんに、先輩は「ほらよ」と押し付けるように返した。 「泉巳くん、どうする? 部屋にカメラ置いてくる?」 「いや、このままレストランに持っていくよ」 「なんか、私たち以外ほとんど宿泊客いない気がする」 「だな」  エレベーターでそんな話をして7階で降りると、すぐ右手にレストランがあった。  薄暗い入り口には【レストラン憩い】という暖簾(のれん)がかかっている。  その暖簾をくぐると、広い店内は意外にも客でいっぱいだった。 「え……、この人たち、どこから湧いて出たんだろ」  思わず呟いたら、先輩に肘でつつかれてしまった。  入口近くのテーブル席に案内された後も、私は気になって周りの客たちをチラチラと観察していた。  宿泊客? それとも近所の人たちが夕食を食べにきているのかな。  中高年が多いから、スポーツ選手の合宿でもなさそうだし。  んー。前にもこういうの、どこかで見た気がするんだけどな。 「あー! どこかの宗教の大会か!」  私が膝を打って発した声はそれほど大きくなかったはずなのに、レストランにいた客もスタッフも一斉に動きを止めて私を見た。
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