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「もしかして私たちがお腹を下したのって、先輩が下剤を盛ったんですか?」
そうだったら、ちょっと許せないかも。
ホテルに着くまで、お腹が痛くて漏れそうで大変だったんだから!
「まさか! おまえは森さんの家でがぶがぶお茶を飲みすぎたせいじゃないか? 村野はホテルに誘導するために腹が痛いフリをしたんだと思う。そもそも車の故障だって、あいつの仕業だろう。セルフのガソスタで軽油を入れたのだとしたら、時間差でエンストを起こすからな」
「あー、まんまと泉巳くんの術中に嵌ったというわけだったんですね。でも! そこから奇跡の脱出劇でしたね。私たち、凄くないですか?」
「俺がな? 凄かったのは俺」
「いや、私だって中年夫を突き飛ばして、素早く車に乗り込んで見事なハンドルさばきで先輩のすぐ横につけましたよ!」
えっへんと胸を張ったら、先輩が「とにかく町田が無事で良かったよ」としみじみ言うから調子が狂ってしまう。
「えーっと。先輩のおかげで助かりました。さすが都川D!」
「だから、その呼び方はやめろって。町田にだけ特別に『りんさん』と呼ばせてやる。それで……俺は『そら』って呼んでもいいか?」
「え、嫌です。私たち、ただでさえ付き合ってるんじゃないかって誤解されてるんですよ?」
「だから! その誤解を誤解じゃなくしようとだな」
「すみません。運転に集中したいんで、ちょっと黙っててもらえますか?」
暗い山道に目を凝らす私の横で、先輩が深いため息を漏らした。
END
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